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Chihiro Yamanaka「Take Five」:身体に巻き付き心を呑み込む音の円環

The Dave Brubeck Quartet「Take Five」はジャズが好きな猫たちにとって多くの言葉を必要としない曲ですが、ジャズというカテゴリーを越えた拡がりを持ちます。曲そのものが有名なことに加え、カバーした音楽家はジャズ・ミュージシャンに留まらないため、どこかで意識せず耳にしているかもしれません。少し聴けば思い出す人もいるでしょう。「Take Five」の影響が見られる曲も少なくないはずで、さまざまな形で人々の記憶に刻まれた曲といえます。

いくつもあるカバーのうち、吸い寄せられるように聴いて虜になったのが山中千尋の演奏です。ピアノ・トリオで構築された山中さんの「Take Five」はテーマでもアドリブでも魅せます。音の強弱、連なり、繰り返しなど魅力的なポイントが多くて、延々と聴けます。音の円環に呑み込まれて抜け出すのは困難です。

余すところなく好きな演奏ですが、特筆すべきはイントロからテーマ、テーマからエンディングに切り換わる瞬間のピアノです。現実世界から別の世界に導かれ、ずっと留まりたいと思った矢先に戻される――そんなイメージが浮かびます。特にエンディングに接続するタイミングが好きで、それまでの音に慣れ、心地よさに溶けかけた意識が瞬時に覚醒します。強く印象に残るポイントであり、僕にとってそれは再び最初から聴きたいと思わせる媚薬です。

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