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藍井エイル「流星/約束/ヒトカケラの勇気」:異なる視点で「藍井エイル」を描き、リスタートというコンセプトを表現する

シンガー藍井エイルのリスタートは、ひとつずつギアを上げていくように、段階的に進みました。2018年2月8日に「約束」のミュージック・ビデオ(編集版)が公開され、4月22日に「流星」の配信が始まりました。そして6月13日、この2曲に新曲「ヒトカケラの勇気」と「流星」のインストゥルメンタルを加えたシングルがリリースされました。

ジャケットを見て感じた印象に残ったのは、暗めの青に包まれていることです。色の分類でいうと、おそらく藍色と呼べるのではないかと思います。アーティスト名に使われている、藍。これまで僕は藍色をもっと明るい色だと思っていましたが、実はこのくらいが藍色とされることを知りました。この色がシングルのジャケットのメイン・カラーとして使われていることは決して軽くなく、そして大きな意味があると思いました。

「流星」は先行して公開されており、ダウンロードして聴いていました。音を重ねた上にスピード感を出す、パワフルなアレンジがとても印象的でした。配信開始から少し経って、ミュージック・ビデオがYouTubeで公開されました。映像を観たとき、藍井エイルはこれまでとは違うところにも目を向けようとしているのではないかと思いました。カメラは彩度の低い世界の中で闇に呑み込まれそうな少女を映し、そして彼女が走り出す姿をも捉えます。それは逃げているのか、立ち向かっているのか、あるいはまた別の意味を持っているのか。走り続け、坂を上り、階段を上ります。やがて行き着いた先に広がっていたのは大きな夜空と無数の星です。それを見上げた彼女は一筋の涙を流し、すぐに笑顔を見せます。エネルギッシュなサウンドの中で、さまざまな意味が浮かんでは消えていきます。

初めて聴いたときから「約束」のメロディに心が締め付けられます。再始動のニュースとともに聴いたために、特に強く印象付けられたのでしょうか。こうして時間が経って改めて聴いてみても、やはり最初の出会いと同じレベルで揺さぶられます。これは、正真正銘、僕の好きなメロディであり、それを届けてくれた歌声に魅せられているということの証です。歌詞が異なれば違った印象を受けたのかもしれませんが、このメロディと歌詞は結ばれるべくして結ばれたのでしょう。その一期一会を祝いながら、心地好いメロディに心を預けます。

2月にアップロードされた曲および映像は2番をカットしたバージョンでした。一方、シングルに収録されたバージョンは2番を入れた完全版です。この部分が入ることで何が嬉しいかというと、違う言葉で美しいメロディを聴けるということ。同じメロディであっても言葉が変われば、感覚的なものではありますが、捉え方が変わると思います。日本語(というか母語)で綴られた歌詞なので、意味を噛み締めながら聴いているのでしょう。新しく聴いた中では、♪笑顔の朝も 涙の夜も 大切にしていけたら♪ という歌詞が印象に残りました。

新曲「ヒトカケラの勇気」は、他の2曲とはまた違ったタイプの曲調であり、これもまた好きな曲です。明るくて気持ちいいロックというのが第一印象です。その明るさに触れると、心はじわりと温かくなり、やがて熱くなります。タイミングが異なればこの曲もシングルとしてリリースされていたのかなと思える雰囲気があります。まあ、3枚目のアルバム『D’AZUR』で僕が好きな3曲はすべてシングル・カットされていない曲なので、「ヒトカケラの勇気」も僕の個人的なアンテナに引っかかる曲なのかもしれません。

歌詞カードに書かれた彼女のメッセージによると、「流星」や「約束」が自分の過去や再始動に関する思いを込めたのに対して、それらから離れて純粋に前に進もうとしているのが「ヒトカケラの勇気」であることが窺えます。この3曲を並べて聴くと、リスタートというコンセプトを異なる視点で捉えることができるかなと思います。もちろん、別々に聴いて楽しんだっていい。点と点を結んでトライアングルを描くことで、ひとつの意味が浮かぶ、そういう受け止め方もできるのだろうと思いました。

8月には日本武道館でのライブが行なわれます。このライブをもってリスタートのプロジェクトが完結するといえるのかもしれません。2月に公開されたインタビューでは、何がしたいかと尋ねられると彼女はライブだと即答しました。そしてそれがついに実現します。しかも、別れを告げたときと同じ場所に姿を見せ、帰還を告げる。そう考えると、活動を休止していた空白の期間すらもドラマチックです。こうして空白に青が満ちていくプロセスに立ち会えるのは、何というかとてもワクワクしますね。


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