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Ryu Miho『Because the Night...』:歌声に導かれた聴き手は、そのイマジネーションを解き放つ

聴く人の奥深くに、ゆっくりと染み込む歌声。2013年にリリースされたRyu Mihoのアルバム『Because the Night...』を聴くと、歌声に手を引かれて別の世界に導かれる――そんなイメージを抱きます。空間の一部が溶け出し、裂けて、その先に広がる世界が垣間見えます。しっとりとした曲調を軸に据えつつ、プログレッシブ・ロックのように劇的に展開する曲やクラブ・ジャズのように踊れる曲、直球ともいえるポップスも含むアルバムです。

なかでも「Africa」が最も強く印象に残りました。言わずと知れたTOTOの名曲であり、本作でアレンジを担当したのはトライソニーク(ハクエイ・キムが主宰するピアノ・トリオ)です。原曲が持つメロディの美しさは、叙情的な演奏とRyu Mihoの歌声で新たな魅力を吹き込まれ、聴き手の想像力を刺激します。

TwitterでRyu Miho本人からもらったリプライによると、この曲は「少女がひとり彼を探す旅に出て色んな思いと景色が混ざって映像になっている」とのこと。Ryu Mihoが歌う「Africa」を聴いたとき、僕がイメージしたのは森です。砂漠は森に覆われていたころの記憶を持っていて、地球が積み重ねてきた記憶にアクセスできるのではないか。そんなことを想像しました。

『Because the Night...』の魅力は「Africa」だけではありません。ささやくような歌声のイメージが強いからか、それを覆す曲、例えば「Batucada」や「baby blue」に意表を突かれました。「Batucada」は軽やかなダンス・ミュージックであり、「baby blue」は驚くほどポップな曲調です。イメージを固定しながら、一方ではそれを逆手にとり、イメージから離れた新鮮な音楽を生み出す――ひとつの軸を持ちながら、そこからどのように振れるか、それを味わうのも『Because the Night...』の醍醐味です。

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