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村野真朱・依田温『琥珀の夢で酔いましょう』:クラフトビールが描く世界、味わいと香りが広がる物語

クラフトビールが登場する漫画『琥珀の夢で酔いましょう』(原作:村野真朱、作画:依田温、監修:杉村啓)を読んでいます。この漫画がきっかけで、僕はクラフトビールを飲むようになりました。あまりビールが好きではなく、むしろ遠ざけていた自分にとって新しい世界のドアを開いてくれた作品です。

物語の舞台は京都です。「白熊」という創作料理の店でビールの魅力に目覚めたマーケッター、北米やハワイを巡って地元に戻ってきた写真家、そして白熊の店主。三人が白熊の集客に試行錯誤するストーリーを軸にしつつ、それぞれの知り合いや各人の過去などが絡んで物語が展開します。

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作中に登場するビールはただ紹介されるのではなく、ストーリーの展開にリンクしています。いうなれば、クラフトビールは小道具ではなく役者の一人、重要な役を演じる助演でしょうか。それを実感したのが、初回に登場した「一意専心」というビールです。

一意専心は「ひとつのことに注力する」という意味を持ちます。物語の中で、グラスに注がれた一意専心が「雑事に惑わされず、自分がやってきた仕事に自信を持つ」きっかけを与えます。物語での役割や、登場人物が表現する味を通して、いつか一意専心を飲んでみたいと思い、同時にこの物語に強く惹かれていきました。

一意専心を製造しているのは京都醸造というブリュワリーです。一意専心を知ってから半年以上が経って、ようやく京都醸造を訪れ、ボトルを購入することができました。最初は「苦手かもしれない」と思ったものの、ゆっくりと飲み続けていると、不思議なことに、ほどよい苦味が心地好くなり、身体に染み込むようにおいしさが感じられました。ビールグラスに注いだ瞬間から飲み終わるまで、ひとつの物語を読んだようにも思えた体験です。

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今やクラフトビール愛好家は多く、たくさんの種類のビールが世に出ています。では、自分に合うのはどのようなビールなのか。百聞は一見に如かず、「一飲」に如かず。本作で知ったビールのうち、入手しやすいものをいくつか試してみました。その結果、よく飲んでいるのが「VEDETT EXTRA WHITE」というベルギーのホワイトビールです。

VEDETT EXTRA WHITEの三分の二をグラスに注ぎ、ボトルを数回回して残りを注ぐ(ようこそ酵母)。飲みやすくて、(飲み頃は3℃とされますが)多少時間をかけて飲んでいても、ずっと味わえます。僕はアルコールにあまり強くないので量は飲めませんが、ボトルの330mlくらいならちょうどいい具合に酔えて、琥珀の夢がふわりと浮かびます。

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MAGCOMIPixivコミックマンガドアなどでは、第1話や最新話を読むことができます。また、単行本は第1巻が刊行されており、次巻が2020年1月に発売されるとのことです。物語はどんどん展開して、登場人物のプロフェッショナルな面とそれによる陰の部分が交錯し、入れ替わり顔を出します。クラフトビールに加えて、いわゆるお仕事漫画としても楽しめるのではないでしょうか。グラス片手に、じっくり味わいたい物語です。


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