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西尾維新・木村俊介『西尾維新対談集 本題』:言葉を生業とする人々が交わした言葉の記録

『西尾維新対談集 本題』は、西尾維新と五人の作家(小林賢太郎、荒川弘、羽海野チカ、辻村深月、堀江敏幸)との対談を収録した書籍です。コント、漫画、小説を通して、誰も見たことのない物語を生み出す人どうしが、相手の言葉を聴き、そして考え、自らの言葉で語ります。

対談は互いの作品を認め合いながら進み、創作への思いを交換します。インタビューのように「話を引き出す」というよりは、話が流れのままに生まれ、それを二人でつないでいきます。何が生まれるか分からないまま、その分からないことを楽しんでいる様子が見受けられます。広告目的のインタビューや対談とは異なる、アドリブで演奏するライブのような臨場感がある文章です。

どの対談もおもしろいのですが、特に印象に残ったのが小林健太郎との対話です。その理由は、二人の言葉に対する感度の高さにあります。作家だから当然といえば当然なのですが、言葉に対する姿勢は作家によって異なり、二人のそれは個人的に強く惹かれました。

小説なら「そうです」というセリフを会話で言わなければならない時も、舞台なら、うなずく動作で表現できてしまうわけです。しかも、僕はそうやって言葉にしない方法で伝えられるのなら、そっちのほうがいいと思っているんです。
なぜかと言うと……言葉というものにはすごく力があるので、お客さんに対してあんまりたくさん与えすぎてしまうと、ひとつひとつが薄まってしまうような気がするから。力があるからこそ、しぼって大事な言葉のみを発したいんですね。


小林健太郎

西尾維新・木村俊介『西尾維新対談集 本題』(講談社)p. 60

舞台芸術は脚本、役者の身体、声、表情、美術や照明、衣装など、さまざまな要素で成り立っているため、脚本がすべてを決めるというわけはないものの、それは言葉が単なるパーツであるということを意味しません。

小林健太郎は言葉の持つ力を理解して、本当に必要な言葉だけを使うことを心がけています。彼の舞台を観たことがあれば、言葉に対する抑制的な姿勢は腑に落ちるのではないでしょうか。限られているからこそ、ここぞいうところの台詞で笑いを生み出せるのだと思います。

僕は昔から「新しい言葉」を覚えるのが好きだったんです。新しい言葉を覚えたら、途端にいろんなところでその言葉を目にする機会が増えるようになるという感覚がすごく好きでした。だから辞書をいっぱい読んで、新しい言葉を覚えて、さぁ、この言葉に次はいつ出会えるだろうと思っているのが好きで……。
その出待ち感の楽しさを読者にも味わってもらいたいというのがあって、あんまり日常生活ではなじみのない言い回しも、小説の中ではわざと使うようにしているんですね。小説で未知の言葉に出会って、そこで「どういう意味なんだろう?」と考え直す感覚を味わってほしかったりもするんです。


西尾維新

西尾維新・木村俊介『西尾維新対談集 本題』(講談社)p. 62

新しい言葉を知ると、その言葉を目にする機会が増えるのが好きだったと西尾維新は語ります。言葉を知ると、生活のなかでその言葉に出会うことが増える。

言葉をめぐるこの感覚に共感を覚えます。僕も書籍や論文を読んで見知らぬ言葉に触れた後、別の媒体で出てくると驚き、そして楽しんでいます。それまで知らなかった世界に足を踏み入れることができる。言葉は新たな世界の扉を開ける鍵です。


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