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南海遊・村山なちよ『傭兵と小説家』:タイプライターは物語を綴り、剣が未来の始まりを告げる

漫画『傭兵と小説家』(原作:南海遊、作画:村山なちよ、キャラクター原案:TAKOLEGS)は、現実世界における19世紀あたりのアメリカやカナダを模した国を舞台にしたファンタジー作品です。主要人物の過去、市井の人々の生活、国家レベルの陰謀、サイエンス・フィクションを思わせる仕掛けが渾然一体となって物語を編み上げます。このほど完結し、終幕の第三巻が刊行されました。

『傭兵と小説家』が描くのは「傭兵」と「小説家」による旅です。所属していた組合が潰され、仕事を失ったひとりの傭兵の姿を描くところから物語が始まります。馴染みの書店に顔を出した傭兵は、ベストセラーをいくつも生み出す有名な小説家に出会います。しかし、互いに罵倒したり、傭兵は殴られたり蹴られたりするなど、その出会いは最悪としかいいようのないものでした。

後日、傭兵仲間から仕事を紹介されますが、依頼主はその小説家。思いもよらず顔を合わせた両者は険悪な空気になるも、どちらも背に腹は代えられません。傭兵は小説家に雇われ、取材の旅に同行します。旅の終着点は国境付近の山岳地帯、目的は滅びた街の秘密を探ること。その旅路を、傭兵は剣で護衛します。大小さまざまな伏線を張っては適宜回収しながら、さらに新たな伏線を張り巡らせて物語の網の目を細かくしていきます。

第一巻では、非友好的な出会いで始まった傭兵と小説家の関係が旅を通して変わっていきます。やがて背中を預けるパートナーになる、その兆しが見えます。続く第二巻で示されるのは真相に近づく情報です。件の山で起きた出来事や旅の障害となり得る勢力との駆け引きなど、背景のように描かれていた要素が前に出て、ミスリードを交えて物語を膨らませます。また、小説家が語った自身の過去からは、小説を書く理由やタイプライターで綴る言葉に込める想いが浮かび上がります。

目的地に着いた最終巻ではパズルのピースがつなぎ合わされ、真相が明かされます。やがて迎えるクライマックス、その後を描いたエンディング。複層的なトリックの陰で貫かれたシンプルな想いの帰結は、切ないものではありますが、読後感を悪くないものにしてくれました。

謎解きを楽しむ一方で、丁寧に紡がれる言葉に感銘を受けました。特に印象的だったのが、第五話の食堂での会話です。温かいシチューやミートパイが二人の空腹と心を満たすなか、夫が病で他界した店主が「あたしは旦那を『亡くした』んじゃなくて 旦那と『最後まで生きた』のさ」と穏やかな表情で語りました。その後、宿に戻った二人が各々の過去を少しだけ明かすことで、互いの心が触れ合います。物語に奥行きが生まれたと感じ、連載を追い続ける契機となった、自分にとって大事なシーンです。

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