にがくてあまい レシピ74 ポパイの蒸しケーキ

Web漫画『にがくてあまい』の最新話、「ポパイの蒸しケーキ」が公開されています。5年以上をかけて積み上げてきた物語は74話。今回はエンディングへの最後のブリッジとなり、ストーリーはダイナミックに動きます。

「マキ」と「渚」の関係が、この漫画の軸であり、そもそものテーマでした。それぞれの家族を巻き込み、二人の関係は緩やかに変質してきました。その結果とも言えるのが第74話です。

http://comic.mag-garden.co.jp/nigaama/

『にがくてあまい』の初期から絡んでいたトピック、「渚」の兄に対する贖罪の気持ちは、後半になって理解へと変わり、それが今回の決意を後押しします。彼は「マキ」やその家族と出会ってともに時間を過ごし、さまざまな話を聞くことで、新たな生き方の土壌を形成します。良い土や手間暇かけた手入れによって育つおいしい野菜のように、彼は素晴らしい関係に恵まれ、生き方を変えていくことになります。

「渚」は悩み、考え、そして決断します。誰かから押し付けられたわけではない、懇願されて流されたわけでもない。いろいろな事情と気持ちが交錯する中で、自らの意思で、自らの手で選ぶ、前に進む。ここまで物語を追ってきた読者にはその複雑さが分かります。複雑なものを、シンプルに見えるようにするのではなく、複雑なままに受け入れる。誰かが犠牲になるのではなく、関わる人々をつないで、複雑な事情をともに抱える。生きづらい(あるいは生きやすいとはお世辞にも言えない)世界で生きるための、目一杯の誠意がそこにはあります。

「渚」の気持ちを受け取った「マキ」も腹を括ります。さまざまな要因で揺らいできた仕事への気持ちが、彼の決断を聞くことでクリアになります。それは二人の関係を終わらすのではなく、新たなフェイズとして始まることを意味します。それが何であるのか、その先に何があるのかは75番目のレシピが語るのでしょう。四月の初めに届く最後のレシピを、じっくりと楽しみたいと思います。

ふと思ったのですが……食べている二人の表情が素敵ですよね。つくる幸せ、食べる幸せ、誰かのためにつくる幸せ、食べてもらえる幸せ、一緒に食べる幸せ。そうした幸せの集積こそが、『にがくてあまい』という物語の本質なのかもしれません。

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