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TM NETWORK「How Crash?」:新しいメロディと音を掲げた再起動、音楽家が地球に向けた眼差し

2021年10月1日に公開された映像は、TM NETWORKの再起動を告げるメッセージであり、配信ライブ〈How Do You Crash It? one〉のトレーラーであり、そして新曲「How Crash?」の存在を明らかにするプレゼンテーションでした。動画に記録された音とメロディを聴いたときに訪れたのは高揚感。新しい音楽がもたらす貴重な気持ちの昂りです。

〈How Do You Crash It? one〉で「How Crash?」のショート版が披露され、〈How Do You Crash It? three〉でフルレングスが演奏されました。そして「How Crash?」のスタジオ録音とインストゥルメンタルが、映像作品『TM NETWORK How Do You Crash It?』の初回盤に封入されたCDで聴くことができます。EDMのリズムに支えられた多層的なエレクトロニック・サウンドのなか、存在感あふれるMoog Oneの音が響きます。

「How Crash?」の詞について、小室さんは昨今のパンデミックについて書かれた論文などを読んで影響を受けたと語ります。「作家としてはパンデミックからの影響は、良いことではないかもしれないけれど事象として書き記したくなる」、そして「書きたい問題提起、言葉が無尽蔵に転がっている」(『BPASS ALL AREA』Vol. 12)と述べており、そこには音楽家としての姿勢、自らが音楽を作る意味が示されています。

伝えたいことがありすぎるのか、それらを伝えるには音符が足りないのか。「How Crash?」には、あふれそうなほどに言葉を詰め込んだ箇所があります。言葉が言葉を呼び、連なる様子はインパクトが大きく、特に ♪何よりも最優先する君へ 誰より何より声を届けたい♪ という言葉が印象に残りました。

日本語の音には不向きといえる言葉の大胆な連なりは、「How Crash?」を「ポップスらしくないポップス」にしている要因のひとつです。こうした作詞のアプローチは、TM NETWORKでは今に始まったことではありません。2007年の「ACTION」や2012年の「I am」に見られるように、ポップスのフォーマットから外れ、独自性の強い曲を生み出します。

もうひとつの要因は曲の構成です。「How Crash?」のサビは、一般的なポップスのサビと同じくキャッチーで耳に残りますが、一方でPre-chorus的に機能し、直後のMoog Oneなどの音に導きます。それは、ボーカルの後に響くシンセサイザー・サウンドが曲の主役を担うEDMのフォーマットです。インストゥルメンタルを聴くと、その構造がよくわかります。これらの要素にEDM系統のエレクトロニック・サウンドが組み合わさって、「How Crash?」を「ポップスらしくないポップス」に仕立てています。


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