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金井千咲貴『僕の呪いの吸血姫』:心を揺さぶる表情は、美しく、悲しく、儚い望みを描く

金井千咲貴の漫画『僕の呪いの吸血姫きゅうけつきの第五巻が2023年11月に刊行されました。『月刊少年ガンガン』で連載しており、本誌より遅れてガンガンONLINEでも配信しています。登場人物の多彩な表情が美しく描かれる、その筆致に感動してファンになりました。

舞台は凶悪な吸血鬼が人々を襲う現代の日本。吸血鬼の殲滅を目指す人間「緒坂唯鈴」と吸血鬼殺しの力を持つ吸血鬼「バロック」の物語です。最新巻では、唯鈴を手に入れようと執拗に狙った吸血鬼「ツクヨミ」との戦いがクライマックスを迎えます。満身創痍の戦いは、バロックがツクヨミの力を封印して幕を閉じました。最後に絶望の表情を見せ、懇願するツクヨミ。力を失うことではなく、記憶が失われ、唯鈴を忘れることへの悲しみがあふれます。

主要キャラクターの去り際の描き方に魅せられる――それは僕の好きな漫画や小説に共通する特徴です。本作ではツクヨミが当てはまります。ツクヨミは人間の生命を軽んじ、玩具のように扱いました。しかしながら、結界の檻の中で見せた懇願の表情と告白の涙は実に切なく、胸を打たれます。さらに印象的だったのはツクヨミが封印される直前のシーンです。ずっと羽織っていた唯鈴のコートが脱げ、ツクヨミが倒れる様子は、彼の記憶と引き剥がされたかのようでした。

既刊の単行本すべてでカバーイラストの美しさに感動したものですが、特に第五巻では色づかいに惹かれました。藤の花があしらわれ、その影がバロックと唯鈴、そしてもうひとりの人物にかかります。影が生み出す濃密な青と、深紅の瞳のコントラストが美しく、ぐっと引き込まれました。


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