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TM NETWORK『Major Turn-Round』:20世紀の終幕に新たな像を結んだプログレの音楽世界

プログレが隆盛を誇った1970年代前半から二十数年後。2000年12月にTM NETWORKがアルバム『Major Turn-Round』をリリースしました。それまで曲単体ではアプローチしたことがあるプログレに、アルバム単位で取り組んだ作品です。メジャーのレーベルから離れ、ROJAMというインディーズのレーベルで発表しました。

アルバムの幕を上げるのは「WORLDPROOF」と題した、ハワイの海にマイクを入れて録音したSEです。海の底に深く潜り、聴き手を『Major Turn-Round』の世界に導きます。底まで沈むと世界は変わり、響くのはフェラーリのエンジン音。アルバム用に音を差し替えた「IGNITION, SEQUENCE, START」が、海から飛び出し宇宙にまで届くような、勢いのあるロック・サウンドを披露します。ベースのCarmine Rojas、ドラムスのSimon Phillipsによる強力で奥行きのある演奏が、打ち込みでリズム・セクションを構築したシングルとは異なる印象を与えます。

表題曲の「MAJOR TURN-ROUND」は32分を超える大作です。Yes、Pink Floyd、Emerson, Lake & Palmer、Genesis、King Crimsonといったプログレを代表するバンドの影響を随所に見せます。Hammond B-3、Moog Minimoog、Mellotronといったプログレを彩ったキーボードの音を盛り込み、TM NETWORKのプログレ・サウンドを打ち立てます。大きく見ると三部で構成され、そのなかでさらに展開が大胆に変わる組曲です。前の曲から引き続きCarmine RojasとSimon Phillipsの技巧的な演奏を堪能できます。

長大な組曲の後を継いだ三曲は、各々のポジションで「MAJOR TURN-ROUND」の外側を演出します。木根さんが書いた「PALE SHELTER」は組曲に入れる構想もあったためか、メロディに漂う悲哀は組曲に通じるものがあります。続くバラード「WE ARE STARTING OVER」も木根さんの曲であり、TM NETWORKの再始動に重なる歌詞が印象に残ります。プログレというテーマが固まる前に制作されたポップスの「MESSAGE」は、もともと木根さんのソロ曲だった「WE ARE STARTING OVER」とともに作品の色を変え、アルバムに幅を持たせます。

プログレは複雑な構成や多彩なサウンドが重視され、その傾向は『Major Turn-Round』にも当てはまります。加えて音楽的魅力を膨らませるのが、TM NETWORKの強みであるボーカルとコーラス――すなわち三人の歌声です。「PALE SHELTER」から「MESSAGE」に至る三曲は、プログレらしさを突き詰めた「MAJOR TURN-ROUND」との対比で、叙情的なボーカルやハーモニーの美しさが印象に残ります。

組曲を軸にプログレの世界を描いたアルバムが終幕に向けて舵を切ります。アルバムを締めくくる曲は「CUBE」という木根さんのバラードです。Moog MinimoogやHammond B-3の音が際立ちます。ピアノの音で静かに始まり、終盤には感情を解放するかのような盛り上がりを見せ、そして最後はイントロと同じように凪の状態に戻る。ダイナミックかつ扇情的であり、終わらないでほしいと願いたくなる展開です。聴き手の印象を支配し、『Major Turn-Round』の音楽世界を閉じます。

2000年12月から2001年1月にかけて、本作を軸にした〈TM NETWORK Tour Major Turn-Round Supported by ROJAM.COM〉が開催されました。全曲を収録順に並べ、間に「STILL LOVE HER」と「ELECTRIC PROPHET」を組み込んだセット・リストです。僕はツアーを締めくくった東京公演の三日のひとつに参加できました。初めて観たTM NETWORKのライブであり、初めて観たプロのライブでもあります。このときのライブの様子が収録され、後にDVDとしてリリースされました。

ライブでは「UMU」と呼ばれるフィルムが使用されました。緞帳のようにステージを覆うサイズで準備され、観客席との間に配置されました。UMUを壁に見立て、映像を重視した点は、Pink Floydを思わせます。しかし、テクノロジーは1970年代よりも発展しています。透過度をコントロールできるのがUMUの特徴です。透明にしてバンドの演奏風景を見せる一方で、不透明にして映像を映すスクリーンにする。半透明にして両者を共存させる場面もあり、音楽と映像を交差する演出を支援しました。

小室さんは録音で使用したキーボードを自分の周囲に配置して弾き、常に鍵盤に触れていました。特にこのライブでは生演奏の比率が高く、キーボード・サウンドの比重が大きいため、いつも以上にフル稼働でした。Mellotronに至ってはライブ用にもう一台を購入して、多くの場面で弾きます。そのストリングスとコーラスの音源は、とりわけ「MAJOR TURN-ROUND」のサウンドを規定した大きな要素です。エンディングで鳴り響くMellotronの叙情的で壮大な音が、組曲の終焉を美しく彩りました。


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