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LINKIN PARK『A Thousand Suns』:持ち上げて、解き放して、バンドが描く音楽世界に潜り込む

2010年9月、LINKIN PARKの4枚目のアルバム『A Thousand Suns』がリリースされました。翌2011年にはワールド・ツアーの一環として来日し、僕もそれを観る機会に恵まれました。本作を軸にしたセット・リストを組み、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。

リリースから経過した時間は10年。その間にアルバムを聴きなおす機会は何度もありましたが、最近になって何度目かの再会を果たし、これまでよりも長く、そして深く聴き込みました。波長が合ったというべきか、聴くべきときが今訪れたのだと思います。当時から感じていたことや、そのときは見過ごしてしまったものを、今の言葉で記録してみます。

10年前、アルバムのなかで最も好きな曲になったのが、パーカッシブなドラミングが身体を疼かせる「When They Come For Me」です。それまでのLINKIN PARKにはなかったリズムなので、初めて聴いたときは驚きましたが、すぐに驚きが興奮に変わりました。重厚でありながら踊りたくなる音は、ロック、エレクトロ、ジャズのどれとも異なる興奮をもたらします。

イメージとして浮かんだのは、太鼓の音が鳴り響くプリミティブな儀式です。そこに雄叫びや咆哮を思わせるコーラスが重なるので、本当に何かを祀る儀式に思えてきます。音に絡みつくMike Shinodaのラップは、天あるいは大地に向かって捧げる呪術的な言葉のようです。

アルバムを構成する15曲のうち、ボーカルやラップが入っている曲は6割です。それ以外の曲はインタールードとして歌モノをつなぐように組み込まれています。いくつかの曲では先人の声がサンプリングされていて、話の内容や声のトーン、当時の社会情勢などが相俟って、メッセージ性が色濃く出ています。

たとえば、「The Radiance」にはRobert Oppenheimerのインタビューが使われており、彼の “Now, I am become death, the destroyer of worlds.” という言葉が傷跡のように、印象に残ります。また、「Wisdom, Justice, And Love」に重ねられているのはMartin Luther King, Jr.の演説 “Beyond Vietnam: A Time To Break Silence” です。曲名はこの演説の一節からとられています。

「Jornada Del Muerto」ではMikeが「持ち上げて」と「解き放して」という日本語をポエトリー・リーディングで繰り返します。それらは、アルバムのリード・シングル「The Catalyst」の歌詞に使われている “Lift me up” と “Let me go” の和訳です。日本のファンへのサービスにも思えましたが、しかしながらアメリカと日本にルーツを持つMikeが発することで、ただのマテリアルではなく、複雑な意味を持つ言葉に聞こえます。

「The Radiance」でOppenheimerの声をサンプリングし、「Jornada Del Muerto」で日本語を吹き込み、そして別の曲には「Fallout」というタイトルをつける。それらの事実を想像力の糸でつなぐべきなのか、それとももっと大きな枠組みで捉え、別の意味を見出すべきでしょうか。『A Thousand Suns』は、もちろんシンプルに聴くこともできますが、海の底に潜るように深く聴き込むと別の世界が浮かび上がってきます。

終盤に盛り上がる「The Catalyst」の後を受けて、アルバムを締め括る曲が「The Messenger」です。穏やかに響くアコースティック・ギターとピアノを背にしてChester Benningtonが歌います。「The Catalyst」との落差も相俟って、アコースティック・サウンドの心地好さを存分に味わえます。

声を振り絞るように歌うChesterが目に浮かびます。それは言葉を運び、メロディを運び、音楽を届ける人の姿です。けれども、たとえば “When life leaves us blind”、“Love keeps us kind” という言葉は、Chesterの個人的なメッセージにも思えます。自分の大事な人々に向けて言葉を届ける、ひとりの人間の背中が見えます。静かな音の中で強く優しい歌声が響き、『A Thousand Suns』が終わります。


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