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藍井エイル「月を追う真夜中」:メロディはリズムと重なり合い、歌声とともに心の奥底に落ちていく

シャープなスネアとクールなギター。最初の音から聴き手の心を奪いにかかる。藍井エイルの新曲「月を追う真夜中」が配信されています。全国ツアーの仙台公演の当日に配信が始まったので早速ダウンロードし、ライブ会場に向かう新幹線の中で繰り返し聴きました。

サビのメロディがとても好きですね。その理由を分析すると、メロディ自体の良さに加え、リズムに感じる心地好さが影響しているのかなと思いました。リズムにメロディがはまっている。リズムを感じながら聴くとメロディが自分の中に深く落ちていく。そんなことを思います。ボトムがしっかりしていると、その上に重なるギターやストリングス、そして歌の魅力が数倍も膨れ上がります。

このメロディには藍井エイルの歌声以外は考えられない…そんなことを思うほどに、心が引き寄せられる歌です。じっくり聴いてみると、声の表情が微妙に移り変わるのが分かります。どこか切なくもあるし、背中を押す強さもある。YouTubeで公開されているミュージック・ビデオではその一端が体験できますが、できることならフルで聴いてもらいたいと思います。同じメロディも前半と後半、そして終盤で印象が変わるのではないでしょうか。

ミュージック・ビデオでは、黒い衣装のためか、前から光が当たってもシルエットのように見えます。その表情は光の角度によって見え隠れしており、どのような感情か推し量ることが難しい。クールなロック・スタイルを全身で表現しつつ、何かの加減で崩れそうなアンバランスな空気に満ちていますね。

僕はリップシンクを中心にしたミュージック・ビデオを好みます。映画を意識したビデオも良いのですが、ミュージック・ビデオである以上、やはり音楽をダイレクトに感じられるシンプルな演出に惹かれます。「月を追う真夜中」では、バンドのパフォーマンスを含め、曲のダイナミックさが視覚的に伝わる映像だと思います。

言葉がメロディに乗って、聴き手のイマジネーションを刺激します。「大事な人との思い出」を「月」に、「つらく悲しいこと」を「真夜中」に見立て、歌詞が綴られています。最後のサビで歌われる ♪もう 真夜中は月を追いかけない♪ というフレーズが心に残ります。

〈LIVE TOUR 2019 “Fragment oF”〉でこの曲を披露したとき、彼女は「新月のように見えなくても月は存在している」ということをMCで話していました。月は夜の闇にも呑み込まれず、極限まで欠けても消えない。僕は小さい頃から「月に追われている」ような感覚があり、月に対してどこか恐怖を感じていたものです。けれども、「月を追う真夜中」を聴きながら夜空を見上げてみると、むしろ月が浮かんでいることに安らぎを感じるようになりました。

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