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TM NETWORK『NETWORK -Easy Listening-』:トランス系エレクトロニック・サウンドに乗せて、歌詞のフィールドで試みた実験

TM NETWORKのアルバム『NETWORK -Easy Listening-』がリリースされたのは2004年3月。デビュー20周年を祝うDOUBLE-DECADEプロジェクトの核となったアルバムです。シングル「NETWORK」と「CASTLE IN THE CLOUDS」に収録した曲のアルバム・ミックス、新曲の歌モノとインストゥルメンタル、TMNの名義で発表した曲のリメイクとリミックスで構成されました。

トランスとポップスの融合をテーマとして、新たなシンセサイザー・ミュージックを開拓しようとした作品です。両者のブレンド具合は先行シングルの「NETWORK」とアルバムで大きく変わります。顕著なのが「SCREEN OF LIFE」と「TAKE IT TO THE LUCKY」です。シングルはギターの割合が多くて勢いと疾走感があり、ノリの良さや聴きやすさも意識されたように感じました。一方でアルバム・ミックスではスピード感を抑え、クリアながらも重みのある音がメランコリックな響きさえ漂わせます。

他の曲も濃淡の差はあれトランスに染まりました。オリジナルを解体してトランスで再構築した「LOVE TRAIN」と「TIME TO COUNT DOWN」。トランス系の音で固めたインストゥルメンタルの「nuworld」と「COME CLOSER」。ポップスやバラードをトランスの音で加工した「CASTLE IN THE CLOUDS」と「風のない十字路」と「君がいる朝」。シングルのポップな音もシンプルな音のバラードも、アルバムを覆う硬質なエレクトロニック・サウンドが別の角度から光を当てます。

『NETWORK -Easy Listening-』の傾向として特筆すべきなのが、小室さんが手掛けた歌詞です。TM NETWORKやTKプロデュース作品を問わず歌詞を書く機会は多かったのですが、作曲家やプロデューサーとしての評価が先行しました。時代が変わった今、どこに向かうべきか。木根さんのエッセイによれば、2004年頃の小室さんは、作家としてのフィールドを作詞にまで広げたいと考えていたことが窺えます。

では、本作ではどのような言葉を綴ったのでしょうか。死生観というと大袈裟に聞こえますが、シンプルにいうと「生きること」だと思われます。自分たちの世代が通ってきた道とこれから向かう道を、人生の終幕を意識しながら思い描く。過去と、終幕という名の少し先の未来を「SCREEN OF LIFE」に刻みます。来し方と行く末を語った後は、大切な人とともに過ごす日々の尊さを「PRESENCE」で描きました。彩度を失ったかのような言葉のなかで、ガーベラの存在が鮮やかな光を放ちます。

新しいフィールドを開拓できたとは言い難いものの、本作での表現は未来に向けたシードとなります。2012年の「I am」では現実とファンタジー、主観と俯瞰のバランスがとれた歌詞が生まれました。TM NETWORKらしい前向きな言葉もあれば、現実を見据えた言葉もあり、加えてダイナミックな視点の転換など以前とは違う言葉のアプローチも見られます。TM NETWORKらしさから離れるかのような2004年の試みも「I am」の表現が生まれる遠因になった。そんなことを思います。


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