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オノ・ナツメ『ACCA13区監察課』:「視る」人は「視られる」人になり、揺れる紫色の煙を見る

アニメをきっかけにオノ・ナツメの漫画『ACCA13区監察課』を知って、原作を一気に読みました。漫画自体は2016年12月に刊行された第6巻で終了し、2017年1月からはアニメの放映がスタートしました。

物語の舞台は架空の世界にある「ドーワー王国」という国です。国を構成する13の区は、それぞれが独自の文化を持ち、自治区として治められています。例えば北に位置する区は雪深く、強い酒で身体を温めることを好みます。西端の区では、区域に多くの島を含み、漁業が盛んです。南方には温暖な気候の区があり、それゆえか平均寿命が高い。広大な砂漠の中で洞窟に街を作って暮らす区もあれば、ギャンブルに人生を捧げる人々が集まる区もあります。13の異なる色に塗られた区は、ひとつの国が持つ多様性を映します。

もともと13区は独立した国でしたが、あるときにドーワー王国としてひとつに束ねられました。その後、クーデターによって分裂の危機が訪れ、分裂を回避するために区ごとの自治が認められます。中央の政治は各区の代表者からなる議会で行なわれることになり、王室は政治に関与せず象徴的な存在となりました。そして、警察、消防、医療などの公共的な機能は統一した組織のもとで運営されるようになります。その組織こそ、本作で重要な役割を演じる「ACCA(アッカ)」です。国や議会からは独立した機関として、国民の生活に根差してきました。

主人公の「ジーン・オータス」は、首都に置かれたACCA本部の「監察課」に勤める青年です。監察課のメンバーは各区にも駐在していて、不正などを防止するためにデータを管理しています。それらのメンバーが適切に業務を行なっていることを確かめるのがジーンの仕事です。副課長の肩書きを持ち、不定期に各区を視察します。そんな彼の指には、いつも煙草が挟まっており、ゆらゆらと煙が立ち昇ります。

この国では、煙草は高級品です。ジーンがどうやって煙草を手に入れているのか人々は知らず、そんな彼のことを「もらいタバコのジーン」と呼びます。最初はジーンのキャラクター設定のひとつに過ぎないように見える煙草ですが、いつからか物語を読み解く鍵として機能します。行く先々で煙草を取り出し、火を点ける。彼が使うライターには、ACCAの名の由来となったこの世界の鳥「アッカ」が描かれています。

各区を視察するジーンを追いかける物語は、「視る」側だったジーンがやがて「視られ」て、さまざまな思惑に巻き込まれていく様子を描きます。扉を開けた瞬間から、結末に向かって伏線が張られていきます。それらの間にミッシング・リンクを見出し、読み解くもおもしろいと思います。完結した物語だからこそ、各所に置かれた布石をミステリー感覚で楽しむことができます。オノ・ナツメの独特の絵柄とそこに漂う雰囲気もまた素晴らしく、楽しみが尽きない作品です。


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