見出し画像

Zedd『True Colors』:EDMとポップスの領域を往来するエレクトロニック・ポップ・ミュージック

EDMとポップスの領域を自由に往来するサウンド。2015年5月にZeddがリリースしたスタジオ・アルバム『True Colors』からはEDMの熱さもポップスの親しみやすさも感じます。

前作の『Clarity』はデビュー作でありながら、EDMシーンの先頭を走るDJ/producerらしいアルバムでした。その路線は継承しつつ、ポップスの要素を強めることで、幅が大きく広がった作品が『True Colors』なのではないかと思います。

たとえば「I Want You To Know」や「Straight Into The Fire」では、歌モノEDMのお手本のような展開を体験できます。一方で、表題曲「True Colors」や「Illusion」では抑制的な歌を通して、歌や音の奥行きを感じながら、深みのある雰囲気を味わえます。

『True Colors』にはひとつの色に染まらない、多彩な曲が収められています。そのなかで僕が特に惹かれた曲が「Transmission [feat. Logic & X Ambassadors]」、「Papercut [feat. Troye Sivan]」、「Daisy [feat. Julia Michaels]」です。いずれも重層的な魅力をもった曲であり、じっくり、そして何度も聴いてみることをおすすめします。

「Transmission」は、緩めのテンポで音と歌とラップが絡まるように流れ出る曲です。粘り気のあるエレクトロニック・サウンドが癖になります。沼に足を踏み入れて沈んでいくような、このまま聴き続けていると何かに支配されてしまう、けれども止められない…そんなイメージが浮かびます。

言葉に言葉が押されるようにして流れ連なるLogicのラップ、これはとても格好良い。一方、X AmbassadorsのボーカリストSam Nelson Harrisの歌はとてもエモーショナルで、クールなラップとの対比で一層心に響きます。

比較的薄めの音で構成された「Papercut」は、静謐なピアノが鳴って、さざなみのように始まります。シンプルながらも音が美しく混淆するハウス・ミュージック。Troye Sivanの歌声は淡々としていて、表情を殺しているかのようなクールさを感じます。

終盤になると、聴き手の気持ちを高めるように音が熱を帯びます。音が増えて厚みを増すなかで、ひとつひとつの音が心地好く響き、気付いたときにはいくつもの音に絡め取られて虜になっています。その幸せな感覚はエンディングまで続きます。

ボーカルにJulia Michaelsを迎えて制作された「Daisy」は、柔らかく優しい雰囲気をもつ曲です。Julia Michaelsの歌は、美声であるだけではなく、言葉の置き方にも魅力を感じます。中でも ♪Why you running, running...♪ と歌う、メロディが小さく跳ねるところが好きです。

「Daisy」を彩るもうひとつの魅力がストリングスです。このメロディもZeddが書いています。ストリングス自体の音も美しいことはいうまもありませんが、歌声やシンセサイザーの音を柔らかく包み込み、引き立て、曲の魅力を増幅しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?