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TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -DEVOTION-』:夜の都市に張り巡らされたエレクトロニック・サウンドとオーケストレーションとリズム

2024年4月21日、TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -DEVOTION-』と題したBlu-rayをリリースしました。2023年に敢行したツアーのライブ映像であり、11月末に迎えた最終公演の様子を収めています。

ツアー用に制作されたインストゥルメンタル「Avant」がオープニングを飾ります。縦に長い三つのスクリーンに映るのは、濃厚な光が照らすクールな三人の姿に赤いタイポグラフィーを被せた映像。パーカッシブで強い音を効かせたEDMが会場を染め上げます。やがて「Whatever Comes」のフレーズがサンプリングされ、何度も繰り返したところで、幾筋ものライトを浴びる木根さんのギターで「Whatever Comes」が始まります。

『シティーハンター』の世界観と交差した演出をはじめ、語るべき要素はたくさんありますが、僕はリズムの強調に注目しました。代表的なのが「COME ON EVERYBODY」です。このステージでは、小室さんによるEDMのインターミッションからテンポを上げた「KISS YOU」の2022リミックスにバトンが渡って、強烈なorchestra hitを鳴らしながら「COME ON EVERYBODY」のイントロに接続しました。もともとorchestra hitを使った曲であり、このコラボレーションでさらに格好良くなりました。身体を刺激するリズムが会場を覆います。ときとしてリズム・トラックが抜けますが、残像のように身体が存在を感じ続けることは、強力なリズムの証です。さらにリズミカルに刻むギターはwith Nile Rodgersを彷彿とさせます。「KISS YOU」のサンプリングは曲の途中でも顔を出し、部分的ながらマッシュアップというべきでしょうか。

オーケストラと一緒に演奏する機会があったためか、小室さんはオーケストレーションでTM NETWORKの曲をアップデートすることに意欲的です。その傾向は「FOOL ON THE PLANET」に色濃く表われました。ボーカル部分のリズムを抜き、オーケストレーションによる壮大な音を前面に押し出します。オリジナルを発表した1987年の時点で壮大さを感じる演奏でしたが、雰囲気の醸成に一役買っていたのがスネアなどドラムの音です。その部分を2023年のライブではオーケストレーションが担い、バンド・サウンドの力強さとは異なって、広がりのある雄大さと包み込む優しさがメロディやハーモニーを彩ります。

ロック、EDM、オーケストレーション。ジャンルを越境する音楽的トライアングルが提示されたのが、ドラマチックに演出されたイントロで始まる「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」です。ピッチの上下で歪ませたMoog Minimoog、甘く切ないフレーズを奏でるピアノ、叙情的なストリングスが聴き手を包みます。絡み合う音が醸す濃密な哀愁は、これまでライブで披露された「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」のなかでもトップクラスで美しい。曲を通してフレーズを繰り返しながら盛り上がりを見せる音の展開は、スタッフによるとLed Zeppelinの「Kashmir」をイメージしていたそうです。

ライブの記憶をBlu-rayと接続して、改めてボーカルの魅力を確認しました。とりわけ今回のステージで感銘を受けたのがバラードにおける表現です。ウツは歌声で何を表現するのか、そして僕らは何を感じるのか。新曲のひとつ「君の空を見ている」が、アルバムで聴いたとき以上にエモーショナルになり、ぐっと引き込まれました。加えて、2023年に初めて録音された「TIMEMACHINE」も胸を打ちました。哀愁と愛情、優しさと切なさ。ロックもEDMも歌うウツは、木根さんが書くバラードも自分の色で音楽世界を描きます。クールで孤高に見える佇まいのなかに、相手を慈しみ肯定する意思が見える――そういった歌を聴かせてくれる気がします。


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