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20220914“血のドラゴンボール事件vol.35”@堺ファンダンゴ

週のど真ん中、ライブハウスの何気ないブッキングで、こんなにワクワクさせられたことはいつぶりだろう。あまりにも素晴らしい日だったので、酩酊していた脳みそを叩き起こして記録する。

そもそも一組目のバンドには油断していることが多い。名前も知らないバンドだし、と、まだシラフでぼーっと眺めていた「ここで生きてるず」は、観客がまばらなフロアどころか、堺駅のホームまで届きそうな大きい声で名乗り、イベントが始まった。その声に釣られて、誘蛾灯に集まる虫みたいに、ふらふらとステージ前へと引きよせられてしまった。トッパーで、演者お客のほとんどのハートに火をつけたと思う。8月に結成したばかりらしい。スリーピースで、初見なのに、ずっと腕を上げたくなるような曲ばかり。私は普段そんなことしないけれど。
ギターボーカル・オリュウくんは、宇宙人みたいだった。気ままで、バンド以外の一切には興味を示さないような、ああ、この人は稀に見る音楽の神様に贔屓されて生まれてきた人だ!と思った。喜怒哀楽すべての感情を歌で表すように、大きい口で歌う。あたしが漫画家なら、彼を主人公に週刊連載を描きたい。
「結局死ぬのがめちゃめちゃこわいけど、ちょっとでも大丈夫かな、と思ってくれたら嬉しいです」「僕は嫌なことが起こるたびに地球滅ぼしたくなるけど、こうやって、こういうこと(ライブ)があるたびにもうちょっと生き延びようと思います」
MCでふいにこぼしたような言葉に、脊髄を震わされた。圧巻のパフォーマンスだった。3人が楽しくてしょうがないというような、なんともいい顔をしていた。ドラムのスティックは、スピーカー横まで飛んできて、「ありがとう!」と言い放って終わった。ワンマンライブを見終えた気持ちになった。

二組目の「福」も、たしか6月下旬に初ライブをしたばかりの、ほやほや赤ちゃんバンド。やっと観に来ることができた。ステージ脇には何故か、絶対にバンドに必要ない浮き輪が置いてあった。
ギターボーカル・うみひよ子とは元々お客同士としてライブハウスで出会ったけれど、今年1月に初めて彼女が歌う姿を観て、泣きながらしゃくり上げてるみたいな歌声が唯一無二で惹かれたのを覚えている。歌声がもう、楽器だ。ベースのおかぴは、なんてことないような涼しい顔で、バキバキにかっこいいベースを弾く。そのギャップに目が離せなくなる。ギターのちーくんは、この日の取り置き特典だった福のプリクラを、自分が着るためだけにTシャツにしていた。普段の大酒飲みの姿とは打って変わって、繊細で綺麗なギターを弾く。個性溢れる子供みたいなフロント3人を、イヌガヨのメンバーで、福ではサポートのみずおちくんのドラムが親のように支える。うみひよ子の最近吐いた嘘は、気になる人とごはんに行ったときに「もうお腹いっぱい」と言ったことらしい。
最後の曲は、1月に福になる前のバンドでうみひよ子が歌っていたもの。ずっと耳に残っていたけれど、福で聴くそれは、あの日よりもパワーアップしていて、脳内麻薬がどばどば出て気持ち良かった。はっぴぃはっぴぃバンド」は伊達じゃあないな。福とお酒がある限り、私には精神安定剤が要らないかもしれない。店長加藤さん含め、色んな人に思わず「福良かった」と言って回った。絶対に対バンしてください。しかし、浮き輪は何の伏線でもなく、結局回収されなかった。

三組目の「MONKEY GROW」は千葉のバンドらしい。5人全員が白シャツ、黒パンツ、コンバースで揃えていて、ステージに出てきたときはかなり若そうだなと思ったが、一体どうして渋すぎる。特筆すべきは、ベースの彼女だ。ミリタリーギャップを被っていたけれど、途中で頭から落ちたときに気怠そうに脚でステージ脇へと蹴り、何事もなかったかのようにイカしたベースを弾き続ける。声は高めで、少年と大人の間みたいな歌声のボーカルのパフォーマンスも、フレッシュでありながら3回は転生して結局何度もバンドをやってしまう人間のようだった。あまりにも場慣れしている。ロックスターであり、海外のコメディアンのようなキャッチーさが耳だけでなく、目でも楽しませてくれた。ツイッターを見ると、平均年齢18.5歳らしい。これからすごいことになりそうなバンドだった。

この日のトリは「サントワマミーズ」。名前はずっと知っているけれど、観るのは初めて。ステージ慣れしているであろう4人の安心感はすごく、この日のトリにもってこいだった。オーセンティックなロックバンドで、ボーカルは佇まいがもうロックンローラー。歌と演奏で、あまりにも酒が進む。お手洗いに行こうとしたときに、モカリンボーカルの曲が聴こえてきたので、我慢してステージ前へと戻った。80年代後半〜90年代初期のような曲が気持ちいい。ベースを弾いているところは初めて観たけれど、あまりにも上手い。彼女のハスキーな声と、歌っていない時と同じくらいバッチリカマすベースラインに痺れた。音楽をやるために人間として生まれてきた人間に違いない。


何気ないブッキングの日でも、全員がやる気に満ち溢れていて、本当に来てよかったと思った。こんなにも良い夜があるから、ライブハウスに通うことはやめられない。出会わせてくれたファンダンゴ、いつもありがとう。出演していた四組のバンドに幸あれ。これからも観に行きます。

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