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心を保つこと

初めてのアジア一人旅だった。韓国、ベトナム、タイの暮らしにお邪魔する放浪旅のはずだった。だけど、気づいたらお金がなくなって飢えていた。暮らしを見る旅から一変、生きる旅になっていた。

まず単刀直入に、何故お金がなくなっしまったかと言うと、カードを作っておらず現金を引き出せない状況にあったから。もちろん、多めにお金は持って行ってたんだけど、思わぬ出費が重なりすぎた結果、気がついたらご飯を買うのに精一杯な金額しか手元に残っていなかった。

旅に出る前は一食一号のお米を食べていた私が、7日目のベトナム(旅のちょうど半分)では既に一日一食になっていた。何故だか分からないけれど、一日一食でも全くお腹は空かなかったな。アドレナリンのせいかな?なんでだろう。でも、その時点ではお金がないから一食、というよりお腹が空かないから一食、だった感じ。まだまだ、飢えてはいなかった。

本格的に飢えたのは旅の終盤、タイでの12、13、14日目。この3日間で使ったお金はPCR代を抜いて500円ぐらい。使ったお金、と言うか手元にそれだけしかなかったから、それだけで生きないといけなかった。町中の飲食店や屋台を回っては、ああ高い、買えない、、、の繰り返し。それでも食べないといけないから、必死に頭を回転させてとにかく買える値段のものを探し求めて歩いて歩いて、、、気が付いたら町を一周していた。死ぬ気で町を一周しても買えるものが何もなかった、と気がついた時には絶望して体の力が抜けて本当に立てなくなったなあ、、、

断食のような三日間が続きほとんど飢えた状態の中で、自分のかたち、そして人の心を保とうとするのは本当に難しかった。やっぱり極限状態にあると心に余裕がなくなってしまう。綺麗に着飾って町を歩く観光客や、いい匂いのカオマンガイを食べてるおじさんが堪らなく羨ましく、自分のことが今までになく惨めに思えた。どんどん悪い考えばかりが思い浮かんで、今までの幸せな記憶が全て消えてしまいそうになった。

どうにか従来の私が消えてしまわないようにと戦っていた時に、私を救ってくれたのはネットの情報でも全能の神様でもなくて、人。私と同じ、人。

公園のベンチで絶望していた私に声をかけて話し相手になってくれたり、ちょっと危険なバイクで空港まで送ってくれたり、なけなしのお金で買ったパッタイにおまけをしてくれたり、スーツケースやポケットを探ってお土産やお菓子を分けてくれたり。もちろん、食べ物をくれたり割引をしてくれたから金銭的に救われたと言う点はある。しかし、それ以上に精神的な面で救われたと強く思う。

本当に沈んでしまって、それ以上進んだらもう出て来れなくなるような、そんな場所にいた私を持ち上げてくれて、ありがとう。あなた達がいなかったら、完全に目から光がなくなって戻ってこれなくなってた。ここに言葉などは関係なくて、本当にただそこに人がいたことが、どんなにありがたかったことか。

やっぱり極限状態にある時に、自分一人の力で幸せな記憶を保ち、心を燃やし続けるのは難しい。今回の経験を通して、言葉や場所を超越した何か、自分の根本、人間の根本にある何か、を垣間見た気がする。この記憶を大切に、これからも。




だけどやっぱり、本当はすごく怖かった。
自分の心が無くなりそうになったことと、
死んじゃうのかなって思ったこと。
私のまま生きて帰ってこれて本当によかった。

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