焼肉屋で飴をばら撒かれた話


久方振りに実体験をば。

あれは今から20年近く前の幼少期のこと。

今でこそほとんどそのような機会はなくなって
しまったが、当時は週に一度くらい、家族で
外食をすることがあった。

父親が車を運転し、今思えば色々な所へ
食事をしに行っていたと思う。

そんなとある日。
我々は家族焼肉といえばでお馴染み、安楽亭へと
足を運んでいた。

当時から外で食事をすることへの特別さや
拘りのようなものは感じていたが、焼肉となると
これまた更に特別感が増していた。


我が家の基本的な流れとして、母が会計をし、
父は先に車に戻ってエンジンをかけているという
ものがあった。

その日も当然、母が会計をし、既に自分含めた
家族は車内に戻っていた。

母親が会計を終え、店を出て車に戻ってきた。
ちょうどその瞬間だった。

店内からもの凄いスピードで、見知らぬ
おっさんが飛び出してきた。

最初は店員がお釣りを間違えたか何かだと
思ったが、制服のようなものは着ていない。
かと思えば、片手に何かを持っている。

家族もそれに気がつき、何事かと思ったのも
束の間、そのおっさんは既に我々の車の
側まで来ていた。

そして、我々にこのように叫んだ。

「飴!!飴ちゃん持ってってないでしょ!!??」




飴というのは、焼肉屋でレジの横によく置いてある、お口直し用のものだ。
なぜそれがわかったかというと、おっさんが
片手に持っていたのは、レジ横にあったであろう
飴の入った籠だったからだ。

なぜ?

なぜこのおっさんは我々に飴を差し出す?
しかも店側の人間でもないのに。

確かに、我々家族はミント系の味の食べ物が
苦手だったこともあって、誰一人としてその
飴を持ち帰ってはいなかったと思う。

とはいえ、なぜ??
目的が全く理解できなかった。


おっさんに叫ばれたのち、驚きつつも父親が
「いやー、大丈夫っスよ。」とめんどくさそうに
答えたが、おっさんは聞く耳をもたなかった。


「飴だよ飴!!なんで持ってかないの!!💢」


なんで?
なんでちょっと怒ってるの?

親父は話しても通じないと悟ったのか、
おっさんを無視して無理やり車を発車させた。

すると、たまたま自分が窓を開けていたのも
災いし、その籠の中の飴を車内へと
放り込んできたのだ。


当然家族は驚き、自分自身も何がなんだか
よくわからなかったが、とにかく
飴投げおじさんから逃げることに必死だった。

時折後ろを気にしつつ、なんとか無事に
自宅まで到着すると、もはや誰も話したがらない
のか、無言で散らばった飴をそれぞれで
拾っていた。誰も食べられないのに。


今でも私の中のトラウマ、恐怖体験として
このエピソードは脳内にこびり付いている。

しかしながらおかしなことに、このことを
家族で覚えている者は、誰一人としていない。

もしかしたら、幼少期の記憶違いが相まって
このような話が生まれたのかもしれないが、
あの時のおっさんの真剣さと、家族の焦り具合は
妙に鮮明に思い出せるのだ。


もしも同じようなおっさんに出会した、
似たような経験があるという方がいれば、
ぜひ教えて下さい。

皆様も、お口直しは忘れずに。

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