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「NO」は「NO」だ /インド映画『PINK』鑑賞録

インドの大スター、アミターブ・バッチャン主演作『PINK』を観ました。
実はバッチャンの出演作を観るのはこれが初めて。これがスターの気迫か…!

『PINK』2016 Aniruddha Roy Chowdhury
インド・ニューデリーに暮らす3人の女性–ミナール、ファラク、アンドレア-は、コンサートで知り合った男性たちと一緒に食事をとることに。その後それぞれコテージに招かれるがそこで性的暴行を受け、ミナールは抵抗した際に男性の頭を瓶で殴り、重傷を負わせてしまう。その重傷を負った男は政治家の甥で、自らの性的暴行の事実を隠し、ミナールたち3人を殺人未遂で訴えるのだった。立証が難しい性的暴行の事実、原告側の虚偽の証言、そして女性蔑視。かつて敏腕弁護士と言われた男(アミターブ・バッチャン)が闘う。

この先はネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。



女性蔑視、性的暴行という深刻な社会問題を扱った法廷サスペンス。
2016年公開の作品でありながら、女性はジーンズを履いてはいけない、酒を飲んではいけない、スカートを履いてはいけない、という話が出てくるということに驚きました。
あくまで例とはいえ、そういった価値観はそこまで古いものではないということでしょうか。

女性蔑視の問題を扱う映画は他にも多くありますし、派手なドラマが起きるといったこともありませんが、アミターブ・バッチャン演じる老弁護士の気迫が、映画をありきたりなものにせず重厚感を与えているように感じられます。

男性には当然の権利が女性には認められない、女性への偏見の眼差しが描かれるシーンの連続で本当に辛い。性的被害に遭った上に、法廷でも白い目で見られ、個人的なことを剥き出しにされ、責められ、言うなれば法廷で二次被害を受けるのです。
アミターブ・バッチャン演じる弁護士は、原告側の証人尋問で証拠との矛盾やその偏見を明らかにしていきます。
女性が笑顔で話しかけ体に触り"合図"を送ってきたのだと主張する原告の男性に対し、女性には「女性の安全マニュアル」が必要だ、本当に可哀想なのは勘違いをしている男性だ、といった皮肉が響き渡る。

性的暴行、そして瓶で殴ったというコテージの中での事件について、最後までそのシーンは視聴者には見せられず、登場人物の証言を通して知ることとなります。
実際にはどのような様子で何が起きていたのか、エンドロールでやっと見られるという構成も面白い。

アミターブ・バッチャンは何の薬物治療を行なっていたのか、妻との関係性、また法廷のはじめに虫をぼーっと見ていたのは認知障害を示唆していたのか、など少し説明不足のように思われるシーンもありましたが、とても見応えのある作品でした。

彼女ははっきりと「NO」と言ったのだ。「NO」とは拒否だ。ただその事実以外に何が必要だろうか。

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