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濱口竜介 悪は存在しない

濱口竜介のファンとして映画公開からすぐに鑑賞はしていたが今まで感想を寝かしていた。この作品を語るために十分な時間が必要だったかもしれない。

石橋英子のライブパフォーマンス用の映像として始まった作品であれよあれよと偉大な賞を獲得する濱口監督の手腕。こんなこと狙ってできるものではないし改めてクリエイティブは生き物で未知の可能性を秘めている。

冒頭の木々の不穏な映像と音楽が途中でぶつ切りになり雪の上を歩く足音やチェンソーの音がより鮮明に響き渡る。ハッピーアワーのような会話劇に魅了され今回もそれを同じように期待していたが少し肩透かしを食らった。森を絵画のように切り取り私たちの五感が研ぎ澄まされる。タイトルが示す通り人中心ではなく自然中心の作品世界。

物議を醸すラストはゴダール映画の如く意味は存在しない。危ないとわかっていても手負いの鹿に近づいた娘。それを助けようとした男とそれを止めた男。それぞれの行動が川の流れのようにありのまま過ぎ去っていくだけ。

濱口竜介が次に何処へ向かうかをこれからも只々見届ける。