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ムニ ことばにない 前編
公演チラシの繊細なイラストと劇団名の不思議さにまず惹かれ、あらすじと主催の信念のあるコメントを読んだことがこの舞台を行くきっかけとなった。
無名のキャスト・スタッフや前編4時間の上演、レズビアン・アイデンティティのテーマで観劇前はいささか高いハードルではあったが、どこまでも誠実な時間が流れあっという間に終演を迎えた。濱口竜介監督のハッピーアワーを初めて観た時と同じぐらいの衝撃だった。1人1人の人物を丁寧に描写するには2時間では足りない。そもそもなぜ他の映画や舞台は2時間で綺麗に収めようとしているのかと疑ってしまうほどだった。
亡き恩師の葬儀の後、バスケットボールを使ってそれぞれが言葉と想いを込めながらパスをする。暗転を多用せず流れるようにシーンが切り替わる。唐突に暴力的な化け物が現れる。観客もワークショップに参加しているかのような錯覚。哀愁漂うラストの細やかなミュージカル。どれも奇跡的な瞬間の連続だった。
そして普通や常識とは何なのかを改めて考えさせられた。マジョリティ、マイノリティという人数の差で価値観や正しさが決まることはとても危険だ。1人の人間が誠実にただ生きているだけでそこに差別はあるのか。私たちが何気なく発している表層的な言葉を常に疑い、他者の声をしっかりと聞きながら生活していきたい。
チケットの裏に手書きで感謝の言葉や4時間の上演を配慮しての低反発クッションの導入。演劇の中身だけではなく、私たちのストレスをできるだけ排除して観劇できるよう外側の気配りも作品と同様に素晴らしかった。
後編の一年後が待ち遠しい。