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Mt.Yari(3180m)

ついに夢だった槍ヶ岳に登頂することができた。何年も夢見ていた山。

ここ数年は一緒に山を楽しんでくれている友人たちと関西圏の山を幾度となく登り、着実に体力をつけてきた。筋力がついたこともあって、ロングトレイルでも膝が痛むことはほとんどなくなった。「今のわたしならもう登れる」と自信を持って言えるようになったのはいつからだっただろう。

今回は夜行バスで上高地へ向かい、山小屋に2泊する予定だ。32Lザックには水分やレインウェア、着替え、行動食と珈琲セットなどを詰め込んで何度も確認を繰り返した。

心配していた台風は思ったよりも早足で過ぎ去り、バスが上高地に着く頃には雨は上がっていた。霧に包まれた山。早朝の山の空気は何度経験してもたまらない。

バスターミナルからの景色

腹ごしらえにバスターミナルのレストランで朝食を。洋風と和風から選べて、洋風はトーストに目玉焼きと珈琲という間違いなく美味しいメニュー。

腹ごしらえが済んだら、1日目はひとまず槍沢ロッヂを目指す。この日は標高は400mほどしか上げず、7時間ほどひたすらに歩き続ける。上高地から見える山たちをぐるっと後ろに回り込まないと、槍ヶ岳には登れないのだ。道中は山の空気と緑に心が癒される。

7時前から歩き始めて、13時頃に槍見台という箇所に到着。やっと今回お目当ての槍ヶ岳が姿を見せる。これだけ歩いてもまだまだ遠い。標高が高いので雲に隠れることが多いが、幸運なことに快晴。

遠くからでも存在感が桁違いな槍ヶ岳

14時頃、槍沢ロッヂに到着。遅めの昼食を食べ、友人はビールを、わたしはチューハイを飲み、夕食後はホットワインを飲んだ。そして20時に就寝。山の夜は早いのだ。

槍沢ロッヂ

2日目。早朝5時に朝食を食べ、一気に山頂を目指す。8時間ほど歩くことは同じだが、2日目は標高を1300m上げる。今回は天気が良かったので、岩稜線を行く東鎌尾根ルートを選んだ。このルートでは常に槍の先を見ながら登ることができる。

今回体力は問題なく筋肉痛もほとんどなかったが、とにかく高所の岩場を進むことが怖く、精神を鍛える必要性を感じた。いつか剱岳や大キレットに挑戦するなら、これくらいで怖がっていてはいけない。

岩場やハシゴを乗り越え山頂を目指す
ワクワクと怖さが入り混じる東鎌尾根ルート

そして、12時前についに槍ヶ岳山荘に到着。しかしここは山頂ではない。山頂に立つためには、岩の塊を登らなければならない。

山頂までは20分、鎖やハシゴを使いながら慎重に登る

そして登頂!!山頂は瓦礫が集まって足場が悪く、落ちれば崖なのでもはや怖さであまり記憶がない。友人はテンションが上がっていたが、とにかく早くその下りてしまいたいわたしはもはやその様子にも苛立ちを覚え、半ばキレていた。恐怖は心を狭くする。

手前が足元の瓦礫。標高3180mからの絶景だ。

この夜は槍ヶ岳山荘に泊まり、夕日を眺め、満点の星空の下でホットワインを楽しんだ。

雲海と満点の夕日

3日目の朝は、朝日を拝んで一気に下山。

山頂までの道中でも、山荘でも、たくさんの人と出会った。

大阪から来たという男性は50歳から登山を始め、ソロで色々な山へ行っているらしい。食堂で一緒になり、北岳や燕岳などおすすめの山をいくつか教えてくれた。3日目は途中まで一緒に下山した。

コロナが始まってから日本100名山を目指し、現在94座制覇したという男性は急遽コーナンで買ったという真っ白なヘルメットをつけ、山頂でひとりだけ工事に来た人みたいになっていて皆の笑いを誘っていた。山頂から降りて、軽食を食べながら色々なエピソードを聞かせてもらった。

神奈川から来たというご夫婦。旦那さんは小麦色の肌をしていて「僕はもう72歳なんだよ」と人懐っこい笑顔で話しかけてきてくれた。自宅の窓からは大山が見えるらしく、奥さんの方は普段は丹沢や大山に頻回に足を運んでいるらしい。大山は任せて!とガッツポーズを見せ、関西からの行き方を教えてくれた。

そして九州から来たというご婦人2人。「わたしたち何歳だと思う?もう後期高齢者よ」とひとりが言い、もうひとりが「後期じゃないわよ、わたしたちは65!」とまたしても年齢を教えてくれた。みな健康な身体を、元気に山に登れることを誇りに思っているのだ。わたしもそのひとりだ。彼女たちはホットワインを飲むのならとポテトチップスや鮭とばを分てくれ、九州や北海道の山についてたくさん話を聞かせてくれた。

どの方も口を揃えて言ってくれたのは「若いからまだまだこれから色んな山に行けるじゃない。わたしたちももっと早く山に出会っていたかった」ということだった。ひとそれぞれ、人生の色々なタイミングで山と出会い、魅せられていく。山が人の心をほぐすのか、みな初対面でもよく話し、互いの山にまつわる思い出を共有する。また会うかどうかはわからないが、別れる時には「ご縁があればまたどこかで。お気をつけて」と互いの無事を祈る。そんな山の出会いもまた、わたしが山を好きな理由の一つだ。

さよなら槍ヶ岳。いつか必ずまた来るからね。


3日間の総歩行距離は45km。槍ヶ岳に登頂できたことがこれからのわたしをまた強くしてくれると思う。そして帰りに上高地で「もしかして槍ヶ岳に登ってきたの?」と話しかけてきてくれたご夫婦が「僕らも涸沢くらいは行ってみたいんだよなぁ」と言うので、山頂で出会った72歳のご夫婦のお話をしたところ「同い年だ!それなら僕らも行けるかな」と顔を綻ばせていた。やってみたいことがあるのなら、いつからだって挑戦していい。可能性はあるはず。

さーて、また明日から下界での日々を楽しもう。もちろん週末はまた山の予定。

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