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ふしぎの城のヘレン製作中に考えていたこと

2011年にリリースした作品「ふしぎの城のヘレン」について、製作中に考えていたことを綴ります。当時明確に言語化していたわけではありませんが、消費者を意識する創作では役立つ部分もあると考え、改めて文章にまとめました。


・楽しみ方を伝えるということ

万人が面白いというゲームはないが、世にあるすべてのゲームは誰かにとって面白いゲームである。つまり、潜在的にはすべてのゲームが「面白いゲーム」ということです。ほとんどの場合、製作者は面白いと思って作品を世に出すため、考えてみれば当たり前の事です。

では、世にある人気作品とそうでない作品の差はどこにあるかというと、その楽しみ方が消費者に伝わりやすいかそうでないか、だと考えます。娯楽作品を楽しむには、カニの殻を剥くような、カメラのピントを合わせるような、消費者側の労力が必要です。遊び馴れたプレイヤーがシリーズ続編やリメイク作品に抱く安心感は、このコストが排されているところが大きいのでしょう。これはゲームに限らずSNSでバズった漫画作品なども同じで、「皆で考察して、暗喩された設定を楽しむ作品」だとか、「独特な言い回しやテンションを楽しむ作品」のような前提が共有されていると、新規の消費者も殻を剥いた状態で身を食べることができます。

しかしながら、新しいゲームを遊んでもらうにはこの「楽しみ方」を伝えなくてはなりません。自分は面白いと思って作っているので、それを伝えるための努力が必要です。

この時私が作ろうとしていたジャンルはRPGですが、アクションやシューティングのような「的確な動きができると楽しい」という直感的で伝わりやすい楽しみ方ではありません。RPGというジャンルは、「リソースを管理してダンジョンを探索するのが楽しい」とか、「ひたすらに自己を強化して、ボスを討伐するのが楽しい」とか、「明かされていくストーリーを読むのが楽しい」だとか、ゲームによって大きく方向性が違います。

よって、これを伝えるために「何をしたときに楽しいゲームなのか」をまず自分自身が定義する必要があります。私は考案した戦闘システムのテストプレイに確かな歯ごたえを感じていたので、「的確にアイテムを選択し、プレイヤーの戦略が成功した時が楽しいゲーム」にしたいと考えました。これを伝えるため、ゲーム導入部分の構築に取り掛かります。

・欲する情報を与えること

いろいろなゲームを遊んで導入を研究したのですが、自分はほとんどのチュートリアルパートが退屈で嫌いでした。その理由を考えてみると、ゲームを楽しむためには操作方法の習得が必要なのに、自分はその情報にあまり興味を持てていないことに気づきます。

製作者サイドからすればゲームを遊ぶために覚えなくてはいけない操作という必要性は見えていますが、プレイヤーサイドは単に「自分の楽しさに繋がる情報」にしか興味がありません。

例えば、「銃を的に当てると気持ちいい」というゲームで、プレイヤーは最初「拳銃のリロード方法」「照準の合わせ方」には興味がないかもしれません。ここに「弾倉が弾切れを起こす」とか、「小さく当てづらい的が出てくる」という問題が起きると、それらの解決手段に興味をもってもらいやすくなります。

興味を持ってもらうということは、その情報が吸収しやすく、楽しいものになっていることを意味します。「退屈だ」と感じたチュートリアルは、その時点ではまだ必要性が理解できない情報や、過剰な量の情報を一方的に押し込んできていたように感じました。

こうして「プレイヤーの戦略が成功した時が楽しいゲーム」は、まずダメージを免れない戦闘で「防御」という戦略の必要性と楽しさを教えるところから始まり、徐々に高度な戦略の導入を要していく……という形で導入部分が完成します。これは2体目のボスであるグリフォンを討伐するまでの、ゲーム内では短い序盤部分にあたりますが、自分としては重要な部分が概ね完成したと感じていました。

・一つずつ情報を与えること

前項の考え方は操作方法にのみ適用されたわけではなく、ゲーム内での情報の与え方全般に応用しました。わかりやすい部分で言えばシナリオです。システムについては手ごたえを持っていましたが、正直に言えばシナリオについては製作開始当初何も考えていませんでした。

プレイヤーを強く惹き付ける物語を書く自信はなかったので、まずプレイヤーに興味を持ってもらい、その後にそれを語るという消極的なアプローチを取りました。ゲーム開始時、極端に情報量が少ないのはこのためです。ゲーム開始直後から主人公やこの舞台に興味を持っている人は少ないだろうと考えて、それらを説明するような冒頭のムービーシーンは省略しています。

実際には強い意志で廃止したわけではなく、チュートリアルの製作中は実装を保留していたものを最終的に「別に必要ない」とカットしたに過ぎないのですが、ゲームの遊び方を理解するのに大変な序盤に情報を詰め込まなかったことは結果的に正解だったかもしれません。

"ふしぎの城のヘレン"のシナリオは私が思いつく範囲で手堅く作った、よく言えば少年漫画っぽい王道なシナリオです。劇中想像を大きく超えるような展開はおそらくないでしょうが、シナリオ面でよい評価を貰えたことは、恐らく情報を与える順番を整理して、飲み込みやすいものにした成果でしょう。「プレイヤーがその時必要性を感じない情報を極力与えない」という基本的な考え方は、システム・シナリオ面においてこのゲームを製作するうえでの軸になりました。

ゲームシステム、世界設定、攻略方法、ゲーム中与えられるどの情報にも「プレイヤーがそれを欲するタイミング」があり、これを先読みする、あるいは先述のチュートリアルのように需要を作ってコントロールすることは不可能なほど難しい事ではなく、技術や感性が必要でもありません。そしてそれは「作品の楽しみ方を伝える」という部分において有用だと感じています。

・おわりに

「面白い作品とつまらない作品があるのではなく、楽しみ方が伝わっている作品と伝わっていない作品がある」「ゲームは情報を与えることの連続なので、その都度消費者が求めているかどうかを意識する」という2項がこの記事の肝です。特に前者については、他の作品を鑑賞する際にも「合わない時には自分の楽しみ方が間違っているので、他の楽しみ方を探す」というポジティブな接し方ができ、楽しめる作品が増えるので是非共有したい視点でした。同じように、何かアイデアを思いついたとするなら、それはあなたが面白いと思っている以上間違いないので、自信を持って「その楽しみ方を他人に伝える方法」に腐心してください!


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