舞台『幕が上がる』初日(※注意・作品についてネタバレがあります)
3年前の全国高等学校総合文化祭演劇部門(とやま総文)で平田オリザ(青年団主宰)から「実は高校演劇界にとって、シークレットなんですけど大きなイベントがあって」という話があり、
(なんだろう、それは)
とずっと考えていたのですが、1年前の春季全国高等学校演劇研究大会(春フェス=岩手)、全国大会(いばらき総文)で映画『幕が上がる』の取材があり、実はももいろクローバーZ(ももクロ)を巻き込んだ大がかりなものだったこと。映画監督の本広克行が、やがて舞台の演出をするところまで、文字通り
「行けるところまで行く」(高橋さおり=百田夏菜子のセリフ)
集大成になるのが「舞台『幕が上がる』」になるはずです。
Zeppブルーシアター六本木の客席に入ると、教室を思わせるセットが設置されています(高校演劇では一般的なセットですが、斜めに作らず、パネルの高さが2間以上あります)。照明は舞台を立体的に見せつつ、全体的に当てる生明かりから入ります。
(教室芝居がずっと続くのか?)
と思ったら、何度か役者たち(と舞台スタッフ)による場面転換が行われます。
新任教師吉岡の突然の退職を受け、それでも県大会に向けて富士ヶ丘高校演劇部は、さおり(百田夏菜子)を中心に練習を続けています。ライバルだったユッコ(玉井詩織)と中西(有安杏果)もすっかり仲良くなり、順調に進んでいたはずの部活。ところが、さおりが演出のプレッシャーに耐えられなくなり、周囲につらくあたり出します。とがめるガルル(高城れに)。その後さおりが書き直したセリフがもとで、中西の声が出なくなります。その原因を明美(佐々木彩夏)から聞き出したさおりは、3年生(ユッコ・ガルル・中西)をカラオケに呼び出し、やがて中西からある告白をされます。
『悲しくてやり切れない』(フォーククルセダーズ)をユッコが歌ってから、舞台の雰囲気が変わります。
中西の葛藤が昇華されるまで、舞台では『銀河鉄道の夜』の台詞渡し(注・台詞を役者がリレー形式で順番に演じていく方法。具体的には台詞が終わるころに別の人が重ねて台詞を言い、渡し終わったら次の台詞を言うことです。全般的に台詞が長めなので、受け渡しがむずかしい)が5分以上続きます。台詞渡しが終わっても、練習に中西が加わることないまま、いつの間にか舞台はユッコ1人になります。彼女がカンパネルラの長台詞をひたすら言い、上手奥のジョバンニの方を向くと、そこにあの人の姿がありました。
役者としてのももクロについて。
・玉井は、カンパネルラになりきっていて、台詞のないところ、長台詞のところ、両方クリアできていたように感じました。ラストシーン、彼女の奮闘がなければ、総立ちのカーテンコールはなかった。それぐらい出色でした。
・「受け」(台詞を言っていない時間の消化)の部分で、百田と有安にかなりのプレッシャーがかかっていました。有安はかなり消化していたように思います。そして、
「あの時は岩手にいた」という苦悩をよくぞ表現してくれたと、感謝しています。
・台詞のない場面で百田がどう対処したらいいのか迷っていたところがありました。前半部分、舞台奥からの発声をかなりマイクが拾っていましたけど、あの部分をマイクなしでできるようになれば、百田の役者としてのステップが一段上がると思います。
・開場した段階で、実は舞台に部員がいて芝居が始まっています。ざわざわする客席を吹き飛ばすように、何度か廊下をダッシュする高城の姿があって、あれで観客がずいぶん暖まりました。百田と有安をはじめ、回りが「受け」やすいように、高城は舞台にずんずん入っていったように思います。
・佐々木は器用なので、無難にこなしていた感じがしました。変にアドリブを狙わず、あのまま演じられればいいと感じました。
初日の観客について
・モノノフ(ももクロのファンたち)が7~8割を占めていたように感じたのですが、全体的にはよい鑑賞マナーだったように思いました。舞台が始まる前に、何人かがももクロに対する合いの手を入れていましたけど、舞台が進んでいくうちに
(これは舞台で起こっているできごとを見た方がいい)
と気づきだし、最後、満場のスタンディングオベーションにつながったのだと思います。
・入口で「電源を切り、携帯は使わないように」とアナウンスがあったのですが、それを守らない方があちこちでいらっしゃったのが残念でした。本番中、客席が真っ暗になるのでメール・LINEによって光が漏れることや、バイブ音が流れるのは、観客全体が気になってしまうのです。
・遅れて客席に入ってくる方を後方から誘導していました。厳しい誘導だと思います。また何かの事情で、上演の途中で客席を出る方が結構いらっしゃいました。椅子間が狭いので、上演中の出入りには相当の覚悟がいりますし、周囲に迷惑がかかると思います。
雑感
・モノノフのためにわかりやすく見せている部分はありますが、基本的には平田がする演出方法を、本広が忠実に踏襲している舞台だったように思います。
・高校演劇的に言えば、
☆上演前から芝居が始まっているところ→青森中央
☆台詞渡しの手法→いわき総合
☆曲きっかけで舞台の雰囲気が変わるところ→神戸
☆典型的な教室セット→丸亀(など多数)
といった学校を思い出したのですけど、そのエッセンスを平田・本広がいただいた感じがします(「青年団が先なんです」と言われてしまいそうですが)。
・とはいえ、どこからともなくお客さんが立って、全員総立ちでカーテンコールを迎える姿は、ももクロをはじめとする「チーム『幕が上がる』」の奮闘を讃える姿でした。座長の百田がどうカーテンコールに対して、どうリアクションをしたらいいか困っていましたが、客入れと客出しで影アナを無事に務めていましたから、全体的には、奇をてらわない、オーソドックスな舞台を務めたのではないかと感じました。
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PARCO Production『幕が上がる』
原作・脚本:平田オリザ
演出:本広克行
出演:百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 有安杏果 佐々木彩夏
伊藤沙莉 芳根京子 金井美樹
井上みなみ 多賀麻美 藤松祥子 坂倉花奈
2015年5月1日Zeppブルーシアター六本木 1時間40分
(文中敬称略)
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▽2015年5月2日、Facebookで記事を公開しました。
▼2021年5月2日、noteで記事を公開しました。
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