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A子さんの恋人

今まで観てきたフィクションの中でここまで
簡潔に美しくフィナーレを迎える物語があっただろうか

たったの7巻でこんなに心に刺さる作品は
今までに出会ったことがない

いや、刺さるという表現は少し違う気がする
" ぽかん"と程大きな穴があいた訳ではないが
"ぽつり"とあいた穴がいつまでも
塞がらずに長く続いている

これを〇〇ロスというのであれば、
初めてのロスとなる

これまで社会現象になるような人気のある
ドラマやアニメなどを観てこなかったので自らロスを
体感するチャンスを潰していたようなものだが
文庫本のスキマ時間に人知れず読もうと思っていた
漫画でこの感覚が味わうことになるとは自分でも驚いた

今作の登場人物のほとんどが美大卒で
サラリー的な仕事をしていない平日の昼間に私服で
街にいるタイプの人々を中心としたコミュニティの
恋愛模様を通して、それぞれの人となりが
上野・谷根千・ニューヨークを舞台に描かれている

この一ヶ月、他の投稿もせずひたすらハマった要因が解るまで全7巻を何度も読み返した

自分なりの答えが出たので今に至る

先ずは、登場人物の細かな心理描写
物語は日常的なシーンがほとんど、
漠然と生活していると当たり前すぎて
素通りしてしまうような心情を繊細に掬い上げ
当たり前を当たり前じゃなく気づかせることで
一人一人の人間味が増し深みが出ている
ちなみに繊細にと言ったが、小林先生の絵のタッチは
どちらかというと粗雑だ

おそらく初見の人からすると気力のない
絵のタッチとページを開いたときの質素感に
疑問に思うだろう(自分も最初の印象はそうだったから)しかし筆ペンのようなサラリとしたタッチは
絡まりあった物語とのギャップを生む

そして近藤先生は線を繋げない
コマ割も詰め込みすぎず十分に取られた余白と行間が
言葉の重みをずっしりと感じさせてくれる

次に、シナリオライティング
おそらく今まで読んだ漫画との違和感
みたいなものはここにある

話が面白くなる3.4巻での話だ
あえて時間軸をずらしたり同時進行していた別の場所での物語を回収したりと、一見分かりづらくなりがちなシナリオがコンパクト且つウイットに富んで流れていく

そして最終巻へ向かうにつれて
緩やかだった物語が一気に加速
これまでの伏線を綺麗に拾い上げ最終話まで持ってく
スキルにスタンディングオベーションです

タランティーノ監督ほど難しくなく
伊坂幸太郎先生ほどかたくない
程よいゆるさの中でこれらが繰り広げられてくことで
集中力が切れることなく読み入れるような気がする

そして気づく、"あえて力を抜いているのでは?"
自分の中で答えが出た後に作者について少しだけ調べた

そこには漫画家という肩書きの他に
デザイナーやアニメーション作家など
ニューヨークを拠点にアート活動しているらしい

漫画以外の作品の絵は作中でのタッチとは違い
とても繊細に描かれている

主人公はなにかと期日に追われていたけれど
絵のタッチや余白の使い方からとても余裕が感じられたきっと描こうと思えば違う表現で
物語を描くこともできたのではないだろうか

描写とシナリオ、そしてこの余裕が
今の自分には何故かハマってしまったのだと思う

な〜んて深読みする人はほとんどいないと思いますが、肩肘張らずに読めるので是非に!
(気になる人は全巻貸します)

p.s 僕は山田が好きです

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