星野源のいる百年の孤独


そう、星野源さんです。
ミュージシャンに俳優にと、もはや何の説明も要らない大スターなのですけど、わたくしはずっと彼のことをよく存じ上げず、大人計画の舞台では何度か拝見していたのですが、「恋」という曲が超超ヒットするまで楽曲もきちんと聴いたことがありませんでした。
しかし一方で、同世代の女性たちは大外刈でもかけられてるのか、ってほどに星野源さんに面白いほどコロンコロン転がっているんですよね。やっぱり魅力的なんだろうなあ……ふうん(私は騙されないけどね??)……ってずっと思ってたんですけど。けど。

そんな中、うっかり星野源さんの詩にいたく感動してしまいまして、仕方ないので虚空に向かって吠え始めることにしました(おたくはすぐ長文を書く)(でも星野源さんのファンの方には「何を今更…」ということばかりかもしれません……)。
わたくしが読み込んで吃驚し感動したのは大ヒットソング「恋」の詩作です。自分なりにまとめておきたいので、ちょっと書いておきます。

「恋」はご本人も出演していた大人気ドラマ「逃げ恥」のタイアップで、OPであのキャッチーなダンス(ガッキーめっちゃ可愛かったね〜)や、民族音楽のような楽しげなイントロもあって、ザ・ポップという感じのアッパーな恋愛ソングだと思っていたのですが。
フルコーラス聞いてみると、楽しげなイメージから程遠い、寂しさや悲しみが始終漂っている気がして、なにか妙なひっかかりを覚えたんです。どこか言いしれぬ寂寥のようなものがずっとありませんかあの曲は。そんなことないですか。

なんていうか、歌詞を確認すると其処此処でどこか終わりというか、無くなることを予感させる言葉が散見されるのです。

まず導入が

「営みの町が暮れたら」

ですよ。
町が暮れるのです。普通、日が暮れていくのは、一日が終わっていく、勢いのあったものが衰えていくメタファですよね。仕事を終わって商店街を通って部屋に帰るんかな〜というイメージですけど、まあ初手から心なしか仄暗い夕暮れの雰囲気で始まります。

そこから、「風たちは運ぶわ」「君のもとへ帰るんだ」
とおそらく男女言葉を使い分けて書いているので、これは多分カップルなり夫婦なりのそれぞれの言葉や心象なのかな〜となんとなく想像がつきます。

さらにサビです。

「胸の中にあるもの いつか見えなくなるもの」

これです。序盤から歌われている仲の良い二人の何かが、「いつか見えなくなる」んです。
見えなくなる理由はなんでしょう。相手が目の前からいなくなる、お互いが距離が遠くなる、あるいは存在しなくなってしまう、等を予感させます。
いずれにせよ、これは歌詞前半で幸せそうな二人が、いずれ離れ離れになるかもしれない、と歌っているわけです。なんか不穏になってきました。

そしてサビ2に出てくる

「君の中にあるもの 距離の中にある鼓動」

この「距離の中にある鼓動」は前の「いつか見えなくなるもの」とメロディ的に対になる位置にあるので、結びつけて解釈して良いと思います。
「いつか見えなくなる」「鼓動」
とするとわかりやすいです。鼓動は心臓。つまりいずれ停止してしまう心臓、愛する人が死んでしまうことを表しています。やばい、めっちゃ不穏になってきました。

そして極めつけがラストのここです。

「夫婦を超えていけ」
「二人を超えていけ」
「一人を超えていけ」

この部分で私はもう参ってしまいました。
ここは様々な解釈ができると思うのですが、肝はさんざん二人の関係性を歌ったあとに「夫婦」でも「二人」でもなく「一人」で曲を締めくくるところです。つまり、星野源は詩の全編通して、どんな愛し合った二人でも死別を含めれば例外なく別れることになり、私たちは全員いずれ最期は一人になる。そして、どうしようもない孤独な場所に帰っていくのだ、ということを歌っているのです。
「一人を超えていけ」というのは、その悲しみに耐えて生きていく、ということ。
なんという壮絶な孤独。
なんという諦念。
私たちがずっと恐れているそのことを、星野源はひとりで静かに見つめて佇んでいるのです。

ここにきて前半の商店街を歌ったような穏やかな歌詞も、死別した老夫婦が、カップルが、かつてのパートナーを、今は見えなくなってしまったかけがえのない確かにあった愛情を、確かめているもののような気がしてきました。
絶対的な孤独のなかに見つけたからこそ、愛することその美しさと輝きがかけがえのないものだと。それを伝えるために彼は世界を音楽で満たそうとしているのかもしれません。

「一人を超えていく」

この、たった数分の短い歌詞で、人の一生を行きつ戻りつするような、根源的な深い孤独と愛情について歌っているその歌詞の巧みさについて、本当に舌を巻いたわけですよ……。
あのキャッチーなメロディの裏にこんなことが書いてあるのかよ……。おげんさんとかいってふざけていてるのに、あなたはこんな場所にいるのか星野源……。


これだけ感動しておいて全然違う意図だったよ、というご本人の説明とかどっかにあるかもしれませんけどね!
「ドラえもん」にもめちゃくちゃ感動したんですけど、すごく長くなるのでまた何か別の機会に……。




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