bento boxと未来の食
私たち一人一人の意識が未来の食を変える。世界的な食糧問題は21世紀以降に一層深刻化すると言われるが、日本の「お弁当」が世界を変えることができるかもしれない。
Sustainableとはつまりバランス
無料のオンライン講座FutureLearnで、英語の勉強を兼ねて時々勉強している。サイエンス、文学、医療、など多彩な講座があり全て無料なので気楽に雑学を学べるのでお勧めだ。
今受講している「Future Food: Sustainable Food System for the 21st century」も面白い。世界的な食糧問題は人口増加、気候変動、経済格差などにより21世紀以降一層深刻化すると言われるが、実は一人一人が意識を変えることによって、よりsustainable(持続可能)な食のシステムに移行することができるという。意識を変えるとはつまり、ファストフード等の加工食品、牛肉等の赤い肉、アイスクリームなど過度な脂肪糖分を含む食品などを避け、代わりに穀物、野菜、ナッツ、魚をもっとバランスよく食事に取り入れることをさす。
飢饉や肥満など世界の食糧問題というと大きな問題過ぎて、とても一人の力で状況を変えることなんてできないと多くの人が思ってしまう。でも一人でも多くの人が、例えば水や飼料を大量に必要とする牛肉の代わりに鶏肉を選ぶことで、森林伐採や水不足の問題に影響を与えることができるし、例えばマックの代わりに野菜を食べることで、肥満による医療問題を改善できるのだ。つまり一人一人がよりバランスの取れた食事を心がけることで、より「sustainable」な食のシステムを実現できるのだ。
そう考えると、私たちの意識や何気ない日々の選択はとても大事なことに気づく。
日本食はバランスがよい
しかし待てよ、とイギリス人講師の講座を聴きながら思った。欧米ではピザやドーナッツをやめてサラダを食べよう、というのは一大決心が必要かもしれないが、日本食は既にバランスが取れているではないか。日本食は一汁三菜で、肉だけでなく、魚、野菜、豆、海藻など毎日よく食べるからだ。
もちろんこれは一般論で、全ての日本人が毎回バランスの良い一汁三菜を食べているわけではない。でも考えてみてほしい。なぜcookpadが会員数200万人超レシピ数20万超の人気サイトなのか、学校給食がどんなメニューを毎日提供しているのか。日本人がどれだけ日々の食事に気を使っているかがよくわかるだろう。
なぜ日本人はバランスの取れた食事を好むのか。逆に、なぜ海外ではそれが難しいのか。それがわかれば、世界の食に対する意識も変えることができるのではないか。講座を聴きながらそんなことを考えた。
お弁当は食育の先生
なぜ日本人はバランスの取れた食事を好むのか。それは昔からそのような食事を食べてきたからだ。島国で海に囲まれた日本では、昔からお米、魚、野菜、豆中心の食生活をしてきたのだ。
でもこれだけ世界は国際化し私たち日本人の食事も肉中心の欧米化が進んでいるのに、なぜ今日でも比較的バランスの取れた食事を好むのだろうか。
私は日本の「お弁当」文化が日本のバランスの取れた食生活に一役買っていると思う。「お弁当」は英語で「bento box」という。
まずお弁当と言えば、何がどんなふうに入っているか考えてほしい。一般的に、お弁当はごはんがメインで、おかずに肉、たまご、野菜などが彩りよくコンパクトに容器に詰められている。そのバランスよさと言ったら、私は芸術の域に達しているのではないかと思う。
次にそのお弁当はいつどんなシチュエーションで食べるものか考えてほしい。お弁当と言えば、遠足。私たちは物心ついた時から、親が作ってくれたお弁当を、遠足に、運動会に、部活に、毎日のランチに食べてきたのだ。
私たち一人一人、何かしらお弁当の思い出を持っていないだろうか。お弁当箱のふたをそ~っと開けると、そこには緑、茶色、黄色、赤の世界が広がり、それぞれに違う味が口の中に広がる。今日はひじきだ、今日は肉団子だ、今日は…。好きなものもあれば苦手なものも入っており、毎回一喜一憂しなかっただろうか。
私は親となって、そのお弁当を食べる方ではなく作る方になって10年が経った。お弁当作りはあとさらに6年続く予定である…。朝5時に起きて、栄養バランスや彩りのバランスを考えながら、毎日飽きないように少しずつおかずのメニューを変えている。面倒だなと思う時もあるけれど、家族が「おいしかった、ごちそうさま」と言ってお弁当箱を空にして返してくれるときは、やっぱり毎回嬉しい。作る方も、一人一人お弁当のストーリーがあるのだ。
お弁当は、単なる食べ物が詰まった箱ではなく、思いが詰まった箱なのだ。だから受け継がれるのだ。
「バランスのよい食事」を、私たちは「お弁当」を通して自然に学び、親から子に何世代も引き継いできたのだ。食事はバランスを取ることが大切であることを、お弁当が「食育の先生」として、自然な形で日本人に教えてくれてきたのだ。お弁当は日本人の食生活にとても大事な役割を果たしてきたのではないか。そんな気がしてならない。
「お弁当」文化を私たち日本人はもっと誇りに思ってもいいように思う。もっと言えば、bento boxは未来の食につながるヒントが隠れているように思う。