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Rの軌跡 第二話「ジュブナイル」

「バンドを組もう」と声をかけてみる。興味を持ってくれる人もいればそうでない人もいる。自分が音楽活動を始めたということを知ってもらうにはどちらでも構わないのだけど、実際に集めてみるとなかなかに大変。

勢いだけで「やるやる~」という奴は数回練習をすると「悪い、ちょっと都合つかなくて」と言ってやめていくし、なんとなく始めた奴は上達もイマイチ。こっちが「プロ目指してやってんだぞ!」といっても「はぁ?なれるわけないじゃん。バカじゃね」という具合。

ついには強権乱用で「もうええわ!お前には音楽をやる資格がない」とまで言い出す始末。音楽やるのに資格とかないのに。今更謝ってもだけど、被害者の皆様、その節は不快な思いをさせてしまい本当にすいませんでした。

結局旧知の悪友であるN君に声をかけ、なんだかんだやっているうちにメンバーが固定。それなりに練習も進むようになった。

最初につまづいたのが「練習ってどこでできるの?」ということ。ドラムセットは?ギターやベースのアンプは?ボーカルは?マイクはどこから音出すんだい?と知らないことばかり。

すぐさま書店でバンドに関係のありそうな雑誌を探す。

あった。その名もまさに、

バンドやろうぜ!

略して「バンやろ」1988年から2004年に宝島社から発行されていた月間誌。タイトル、まんまだな。

そこに目を通すとなになに、ふむふむ。バンドの練習はどうやら「スタジオ」なるものに行ってやるらしい。そして「ライブハウス」というところに出演してお客を集め、CDを売って、デビューするのだな。なんだいたってシンプル。そうこなくっちゃ。

でもスタジオってどれぐらいお金がかかるのかな。。お小遣いでいけるやろうか。

そんな僕たちがなるべくお金をかけずにやったことが、メンバーであるM君の家で練習をすること。え?マンションですけど。大丈夫8階だから(意味不明)昼間はあまり人が居ないと思われるためとにかくやってみよう。

6畳程度の部屋にメンバー5人+機材を入れて(さすがにドラムはなかったのでちっちゃい電子ドラムパッド)でやってみる。うーんうるさい。でもなんかいい。なんだかよくわからんがいいのだ。何曲かやる。部屋の温度が猛烈に上がる。クーラーを一番低い温度にしていても暑い。でも楽しい。

そんなこんなで練習を重ねていたある日。いつものようにM君の家に行こうとエレベーターホールを通ると何やら張り紙がしてある。

「ここ最近騒音の苦情が増えています。ギターや歌など楽器を演奏する音が聞こえるということでお心当たりの方は速やかにやめて頂きますようお願いします。管理人」

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そしてM君の家にも管理人さんから直接苦情が来たらしい。犯人ばれてますけど。

お金をかけないつもりが、人様に迷惑をかけてしまった。やはりスタジオとやらに行く必要がありそうだ。

そんな時メンバーの一人が、近所にある電気屋の2階がスタジオになっているらしいという噂を聞きつけた。なんと!それはまさに神の啓示。俺たちにそこを使えと言っているではないか!と持ち前のご都合主義を持ち出し、放課後早速その電気屋へ話を聞きに行った。

:スタジオがあると聞いたのですが。

電気屋のおっちゃん:あるよ。

:使わせていただくことってできますか?

電気屋のおっちゃん:できるよ。

:あ、見せてもらってもいいですか?

電気屋のおっちゃん:いいよ。

という淡々としたやり取りを交わしたのち、店の奥にある狭い階段を上り、2階にある噂のスタジオへ。

テレビで見たことのある重たくて黒光りしている扉を開けるとそこは広々とした防音空間があるではありませんか。

:すげー。いいじゃんこれ!早速練習しようぜ。

電気屋のおっちゃん:いいよ。予約してね。

:(・・・いたのかよ)

ということでその場で予約を入れ、スタジオでの練習スタート。心配していた料金も良心的で、普段の浪費を我慢すればなんてことはない。

バンド名どうする?

バンドメンバーが固まってくる頃、そんな話題になった。当然僕はあたりをつけていて、その話題が出るのを今か今かと待っていたのだ。

当時絶大な人気を誇る漫画があった。それはその後に巻き起こるジャパニメーションの筆頭となる。ヤングマガジン連載「AKIRA」である。

ここに登場する少年の事を「ジュブナイル」と呼んでいたのを思い出し、バンド名にした。自分たちの事をあえて「少年」と言ってしまう感覚も青臭くてなんだか懐かしい。

自分のライフスタイルにギターを背負ってスタジオへ通うという習慣が追加される。おおこれはまさに夢に見ていたミュージシャンの初級。スタジオ兼電気屋(電気屋兼スタジオなのだが僕の中では逆転している)のおっちゃんも音楽をやっている人間には心が広くいろいろと相談にも乗ってもらっていた、はずだった。。

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