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Rの軌跡 第十話「フレンズ」

軽音楽部の部室をのぞき込む。誰もいない。確かここって言ってたよな。

しばらくきょろきょろしていると、近くの教室からドラムの音が聞こえる。

音のする教室をのぞき込むと、昨日会ったヒョロガリモジャ頭と女子も含めた数人が何やら演奏の準備をしている。ヒョロガリモジャ頭はドラムの前に座っていた。やっぱりドラマーなんだ。

:あ、あのー

ヒョロガリモジャ頭:ああ、昨日の。みんな、さっき話した彼。えーっと

:Fです。

ヒョロガリモジャ頭:F君。パートは、、

:ギターです(ってかやたら仕切るなこいつ)

ヒョロガリモジャ頭:またギター?うちの部活ギター多いんだよな。ベースおらんねんけどベースやらん?

:い、いえ。ベースはちょっと。

ヒョロガリモジャ頭:まあいいや。今から練習するからそこでちょっと見ててよ。

俺は促されるまま部室の隅で様子をうかがっていた。

ドラムはヒョロガリモジャ頭。キーボードはてっぺんでギュッと髪を一つにくくっている女子。ギターは眠そうな目をした男子でボーカルは小さくてかわいらしい女子だった。確かにベースがいない。

ドラムのカウントで演奏が始まる。

:!!・・・おいおい、下手すぎるやろ。。

ベースがいないので締まりがないのは仕方ないとしても、ヒョロガリモジャ頭は生真面目にリズムキープしながら悦に浸っているし、ほかのメンバーも自分の演奏にだけ集中していて周りの音を聞いていない。

1曲演奏し終わったところで全員が飛び切りの笑顔を浮かべる。ヒョロガリモジャ頭がタオルで顔を拭きながら、どうだった?と聞いてきた。

:・・・いや、まあ、その、まあまあかな。

ヒョロガリモジャ頭:おいおい、まあまあはないだろう。俺たちは仲間なんだから、思ったことは言ってくれたまえ。遠慮はいらんよ。

いつの間にか仲間にされていた。他のメンバーも俺が何を言うのか興味深々だ。まずい。これは非常にまず。俺はこういう時におべんちゃらが使えない性格なのだ。深呼吸をして一つ咳払いをする。

:えーっと、ほかのメンバーの音聞いてないかな・・・。演奏に一体感がなくて聞いててしんどい・・・感じかな。

凍り付く空気。いやいや、あの演奏で称賛の言葉が出るとでも?ってか楽器弾けるだけすげーみたいな雰囲気出すのやめてくれる。

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ヒョロガリモジャ頭:そっかー。俺もそう思ってたんだよな。ほら、みんな、こないだ話してたじゃん?バンやろ見ながらさ。バンドって個人が目立つためにやるもんじゃないんだよ。そんなの幼稚。中学生の遊びじゃないんだからね(両手を広げてパントマイムのジョークポーズ)俺らは高校生。全員が一つにならなきゃダメなんだよ。ね?F君。

:そ、そうやね。バンドって全員の音が一つの音っていう、

ヒョロガリモジャ頭:そうそう!いいこと言うじゃん。さすがF君。ちょっとさあ、聞かせてやってよ。みんなにさ。バンドってこうだぜってところをさ。

:え、うん、まあいいけど(なぜ東京弁)曲分かるかな?

ヒョロガリモジャ頭:レベッカとか行ける?

:ああ「フレンズ」ぐらいなら。

ヒョロガリモジャ頭:ひゅーう(下手な口笛&髪をかき上げる)いいねえ。

眠そうな目をしたギタリストからギターを借りる。実はある程度こういう展開も予想をしていた。あとはみんなと合わせられるかどうか。てかネック太い!どこのギターだよ。

眠そうな目をしたギタリスト:それ、先輩からもらったん。

ははっと苦笑いをして、アンプのセッティングを調整する。ベースがいないから低音を持ち上げる。それとマイクが死んでるからハイミッドをちょっと削って。

ヒョロガリモジャ頭:じゃ行くよ。ワンツーツリー、

最初はブリッジミュートでバッキング。キーボードのフレーズの後にミュート解除でギターのアルペジオっと。

世界が変わる。1音目からさっきとは全く違う。その場にいた全員が感じた。何じゃこりゃ。さっきと同じ楽器なのか?そんな表情をしている。そしてそれを証明したのはボーカルだった。

まるで別人のような艶のある声。歌詞に感情が乗っている。歌っていて楽しいと感じる。これこれ、バンドの化学反応ってこれが醍醐味ですよー。サビが終わってギターソロ。空間系のエフェクターがないのでアンプについているリバーブを少し上げる。

ちなみにレベッカの「フレンズ」はギターソロが泣ける。そして初心者にはちょっと難しい。単音だけじゃなく歯切れのいいコード引きやシンコペーションが絶妙に絡んだフレーズが出てくる。このギターだと少しアタックが足りない。どこのピックアップだよ。

演奏も終盤。そういや終わり方を決めてなかった。この曲フェードアウト!ライブ版の終わり方で行けるか、みんな知っているかな?ヒョロガリモジャ頭がこちらを見る。キーボードの女子に視線を向ける。大丈夫。わかってる。思い切ってライブ版の終わり方で演奏する。

じゃじゃーん。少しずれたけどほぼ完璧。初めて合わせたのだ。これぐらいなら合格。タオルで汗を拭きながらヒョロガリモジャ頭が目をキラキラさせながら言った。

ヒョロガリモジャ頭:F君。君を誤解していたよ。俺はK。この部活の部長。君と同じ1年だ。

:いやーそれほどでもあるんですが(ってかどう勘違いしてたんだ)、、、ってお前1年?で部長ってどういうこと?

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