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日本の経営学者:清水龍瑩 1

はじめに

自分は慶應義塾大学の商学研究科で博士号をとり、その時の指導教授は岡本大輔先生である。そして、岡本先生の師匠が清水龍瑩先生である。

龍瑩先生は多くの著書を残しており、日本の経営学の発展に大きく貢献した研究者として知られている。

指導教授の岡本先生の研究もその影響が反映され、自分も龍瑩先生の経営理論について岡本先生やそのほかの弟子の先生方から間接的に学んできた。そこで感じたのは、龍瑩先生の経営理論はとても「人間臭い」ということだ。

これは、龍瑩先生が多くの経営者にインタビューを行い、データ分析の結果を定性的なインタビュー等で補い、現象の説明を現場の声によって裏付けていることに起因すると思われる。

ここでは、自分が大学の学部生だった時にテキストとして学んだ「社長のための経営学」を参考に、龍瑩先生の独特な理論について紹介したい。
彼の理論はもはや30年以上前のものであるが、そもそも理論には普遍性があるものであり、例えばポーターの経営戦略論やバーニーのリソースド・ベースド・ビューなど、今でも経営学の主流の理論になっている。その意味で、龍瑩先生の理論も現在において大いに参考になる点があるだろう。

社長のための経営学

「社長のための経営学」は1999年に出版された、経営学のテキストである。このテキストは長く慶應義塾大学の商学部において、経営学のテキストとして広く用いられていた。

自分もこのテキストで経営学について学習した一人であり、その内容は今でも参考になるところが大きい。例えば、自分は企業の社会的責任や企業倫理に関する研究をしているが、このテキストにはちゃんと企業の社会的責任等についての章が含まれている。日本で企業の社会的責任という考え方が広まったのは2003年のCSR元年以降であるから、以下にこのテキストが当時においては挑戦的であり最先端のテキストであったかがうかがえる。

タイトルの通り、このテキストは経営者の目線で企業経営を考えるのに適している。これは経営学という学問の基本的な考え方であると自分は思っている。とりわけ、1回生向けに経営学入門という科目を担当していた時は、学生に「社長になったつもりで講義を受けてください」と伝えていた。これはこのテキストによる影響が大きい。

企業とは何か

まず、龍瑩先生の理論の特徴を捉えるにあたって、企業とはどのような存在かを定義している。結論から言えば、龍瑩先生は企業を社会経済全体のサブシステムとしてとらえている。これは、企業を株主との関係でとらえる企業観よりも、企業をステイクホルダーとの関係でとらえる考え方に近いといえる。

企業は常に社会経済全体と相互に影響を及ぼしあっている。企業は自由市場の価格メカニズムに従って購入した資源を効率よく用いて生産活動を行い、それによって社会の需要を満たす。また、購入した資源に対しては対価を支払い、労働力に対しては賃金を支払う。

これらは企業にとって、最低限の責任であると龍瑩先生は述べている。また、社会全体から見て企業が存在する価値があるのかどうかを考えなければならないことを述べている。

おわりに

龍瑩先生は企業を社会経済全体のサブシステムとしてとらえることで、企業と社会との関係性を意識した企業観を提示している。これは、龍瑩先生の著書の多くで見られる企業観であり、現在主流となっているステイクホルダー資本主義とも通じるものがある。

一方、龍瑩先生の提示する理論において重要な考え方に「長期の維持発展」という考え方がある。これがどのようなものなのか、利潤の最大化とどう異なるのかについて、機会があれば説明したい。

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