なぜビジネス・エシックスが求められるようになったのか

ビジネス・エシックスの重要性は以前から指摘されてきたが、近年その傾向はますます強まっている。ここではビジネス・エシックスに関する教育が求められている理由を三つに絞って言及する。

第一に、ビジネスの社会への影響力がますます大きくなってきていることがあげられる。

例えば、GAFA (Google, Apple, Facebook, and Amazon) の四つの企業が世界的にも大きな影響力を持っていることを考えてみるとよいだろう。わからないことがあればすぐにGoogle の検索機能を使って調べることができる。

Apple の提供するi-phone はスマートフォンという新しいデバイスを世の中に広め、今や生活において欠かすことのできないガジェットにまでなっている。

Facebook によって人々はボタン一つでつながり、「いいね」ボタンによって互いに承認することができるようになった。

そして、わざわざ店舗に足を運ばなくても、あらゆる商品をボタン一つで注文できるサービスをAmazonは提供している。こうした企業は人々の生活スタイルを大きく変えたほか、各国の経済システムに対しても大きな影響を及ぼすようになってきている。

また、GAFA以外にも、鉄道などの国のインフラストラクチャーを担う企業など、我々の生活は多くの企業活動によって支えられ、多大な影響を受けている。

よって、より健全な社会を構築する上ではこうした企業活動が責任ある形で行われる必要があり、そのためには企業の責任とは何かを考え、どのような行動をすべきなのかを議論する必要があると言えよう。これが、ビジネス・エシックスの知識が求められている第一の理由である。


第二に、企業不祥事への社会からの批判があげられる。企業不祥事は毎年のように新聞をにぎわせ、その原因はビジネス・エシックスの研究において指摘され続けてきた典型的なものであることが多い。

例えば、2018年に起こったスルガ銀行におけるシェアハウスへの不正融資問題においても、激しい競争環境における過剰なノルマ主義、そして創業家が大きな影響力を行使できるコーポレートガバナンス体制、といった点が不祥事の原因とされているが、こうした要因が企業不祥事につながることは既存研究が明らかにしている。

よって、ビジネス・エシックスを学習するということは、こうした不正や不祥事の原因になることへの理解を深めることにつながり、不正や不祥事を防ぐための予防になりうるだろう。

第三に、ビジネスを取り巻くステイクホルダーがますます多岐にわたり、その関係性が複雑になってきていることがあげられる。

今や企業や組織が関係するステイクホルダーは一国にとどまらず、世界中に存在していることになる。それゆえ、こうしたステイクホルダーの利害調整を行うことがマネジメントにおいては求められるだろう。

利害調整においてはお互いの利害が対立する場合も多々あるはずであり、この困難を克服するためには単純な経済的利益の最大化を目指した経営以上のものが求められることになる。ビジネス・エシックスの知見はこうしたステイクホルダー全体の利益を考える上で有益な指針をもたらすだろう。

以上の点が、ビジネス・エシックスが教育において求められる理由である。

とりわけ、近年では、経済学や経営学、マーケティング、会計学、ファイナンスなどを学ぶ学生が、ビジネス・エシックスを必修科目として履修しなければならないケースが増えてきているが、これは大いに世の中にとってプラスになることと言える。なぜなら、こうしたビジネスを学ぶ大学やビジネス・スクールの学生は、組織の論理を中心とした理論を学ぶことになる。

すなわち、経済合理性や組織にとって何が最も良いことなのかを中心に考えることが正しい、という思考に学生はとらわれる可能性が高くなってしまう (Giacalone and Thompson 2006; Ghoshal 2005)。

そして、既存研究から、このような学生は将来、非倫理的な行動をとる可能性が高くなってしまうことが明らかになっている。

例えば、Wang et al. (2011) は経済学教育と学生の強欲的な行動との間に正の関係を見出している。また、McCabe et al. (2006) はビジネスを専攻する大学院生が他の学問を専攻する大学院生よりも試験等でズル (cheating) をする可能性が高いことを発見している。

こうしたことから、ビジネス・エシックスはビジネスを学習する人々には必須の知識となるだろう。

References

Ghoshal, S. (2005). Bad management theories are destroying good management practices. Academy of Management Learning & Education, 4(1), 75-91, doi:10.5465/amle.2005.16132558.

Giacalone, R. A., and Thompson, K. R. (2006). Business ethics and social responsibility education: Shifting the worldview. Academy of Management Learning & Education, 5(3), 266-277, doi:10.5465/amle.2006.22697016.

McCabe, D. L., Butterfield, K. D., and Trevino, L. K. (2006). Academic dishonesty in graduate business programs: Prevalence, causes, and proposed action. Academy of Management Learning & Education, 5(3), 294-305, doi:10.5465/amle.2006.22697018.

Wang, L., Malhotra, D., and Murnighan, J. K. (2011). Economics Education and Greed. Academy of Management Learning & Education, 10(4), 643-660, doi:10.5465/amle.2009.0185.



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