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前寛之の持つ特別な力

彼がずば抜けている『バランス感覚』。

それを、詳しく紐解いていく。

前寛之とアビスパの今季の流れ

前寛之、25歳。
今季、長谷部監督と共に水戸ホーリーホックからアビスパにやってきた、ボランチの選手。
開幕戦・北九州との試合でスタメン出場すると主に守備で貢献し1-0の勝利に導く。
その後大幅な中断期間を経て行われた第2節・琉球戦にもスタメン出場しドロー。が、第3節の長崎戦から出場メンバーの中に前の姿はなく、復帰したのは第7節の岡山戦。この試合は後半途中から出場し、7月29日の第8節には後半の45分間に出場。万全な状態までもう一歩まできていた。

しかし、このタイミングで悲劇が襲う。自覚症状はなかったものの8月3日に行われたPCR検査で新型コロナウイルスへの陽性反応が出てしまい、チームを離脱。
その間にチームは大きく低迷し、17位まで順位を落としてしまう。
それでも約1ヶ月後の9月5日の第17節・山口戦で前がついに復帰すると、チームは一気に上向く。ここから12連勝を含む15戦無敗で一時は首位にまで浮上。
今月1日のジュビロ磐田戦でついに敗れたが、この試合まで前が出場した試合では負けなしが続いた。
第34節まで終了し現在2位と昇格圏内に付けるチームにおいて、中盤の要として君臨している。

今季、ここまでの流れを書くとこうなる。
見ての通り、前個人としてもチームとしてもアップダウンが非常に大きなシーズンとなっている。
それでもブレずにやり続けたことで、残り8試合となった現時点で昇格圏内に位置しており、自らの手で目標を達成できるところにいる。

前寛之の今季のプレーぶり

今度は前の今季のプレーを振り返ってみたい。
開幕戦の北九州戦で、前は守備にエネルギーのほとんどを使っていた。SBの裏のスペースを何度もカバーし、自陣内までが主なプレーエリアだった。その後もしばらくは、攻撃参加する機会はほとんどなかった。
それが変わってきたのが、第9節(延期分。実際には19節と20節の間に行われた。)の大宮戦あたりからだろうか。この試合の先制点のシーン。左サイドにスペースがあるのを見て、飛び出してボールを引き出す。そしてフアンマへのクロスで決勝点をアシストしてみせた。

さらに、第27節の群馬戦では勢いを持ってエリア内に侵入し、右からのクロスに右足を合わせて今季初ゴールを奪った。

群を抜いている能力

こういったシーンが見られるようになったのには、前個人に大きな変化があったというわけではない。相方とも言うべきもう1人のボランチの選手との連携が良くなり、チーム全体の完成度も上がってきたためにバランスを取りつつ攻撃参加することができるようになったためだ。

とはいえまずは守備ありき。守備の際には自らのチームの重心を察知して、常にそこを抑えていく。
そしてチーム全体がバランス良く守ることができていてチャンスと思えば、勝利のために相手の弱きを突いていく。

ただし、攻撃参加の回数自体は決して多くない。その代わり出ていくタイミングの見極めが凄い。それはやはり、相手の重心を察知して突くべき点が見えているからだろう。

つまり、前は双方のチームのバランスを察知してプレーしている。
プロのボランチならば多少なりとも持っている能力ではあるが、前のそれは群を抜いている。


増す凄味

今季は過去に類を見ないほどの過密日程であるなか、復帰後は中心選手としてほとんどの試合に出場している。表情に出るタイプではないため分かりにくいが疲労は溜まっているに違いない。
しかもアビスパが上位にいることで相手に研究され、前へのマークも厳しくなってきている。

それでも攻撃参加の回数は、試合を経るごとにじわじわとだが増えている。第31節の水戸戦でも、5分の得点シーンでは左サイドに上がりマークを引きつけて輪湖をフリーにした。
その後も得点にこそ繋がらなかったが、63分には流れの中からバイタルエリアに入り込み、際どいミドルシュートを放っている。

負けないカラクリ

サッカーとは11人で組織的に戦うスポーツ。スーパーな選手が1人いてもそれだけで勝てるというものではない。勢いが生まれて一時的には成績を押し上げることはできても、そうそう長続きするものではない。
それなのに、アビスパは今季を通して、前が出場すればほぼ負けていない。
そのカラクリこそ、上記した「バランスを見極める能力」によるものなのである。

前寛之のこれまで


札幌のユースからトップに上がったものの中々ブレイクには至らず。出場機会を求めて移籍した水戸でレギュラーの座を掴み、大きく成長。
昨季はプレーオフ圏の6位まで得失点差1という水戸の大躍進を支え、J2屈指のボランチとも言われるまでになった。

その活躍もあり、J1のチームからのオファーもいくつかあったと聞く。しかし水戸で共に戦った長谷部監督を慕ってか、昨年J2でも17位に沈んだアビスパへの移籍を選択した。
長谷部監督への信頼という要因が多大にあったのとは間違いないが、長谷部監督が就任したアビスパならばJ1に昇格できる可能性が高いと判断したのだろう。

観たい景色

プレーだけでなく所属先に関しても冷静に見極め、焦ることなく一歩一歩歩みを進めてきた。そうやって着実に成長を続けてきた前を来年、2017年以来となるJ1の舞台で観てみたい。アビスパの選手として。
そのために残り8試合、全てが大切な試合となる。

これはまだ先の話になるが、近い将来観たいシーンがある。前がアビスパのユニフォームを着て、J1で1試合に何度か攻撃参加する姿だ。
前が攻撃参加する回数は、チームの調子を測るバロメーター。
継続してそのシーンが見られるようになった時、アビスパ福岡はJ1でも戦えるだけの力を付けたチームになっているはずである。

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