【読書雑記】宮崎市定『雍正帝−中国の独裁君主』(岩波書店、1950年)

 近々中国に出かけるから、と意識している訳ではないが、何となく手元にある中国関連書籍に手がのびる。帰省した折も、かつて読んだ中国の古典をあれこれ手に取っては眺め、実家の本棚の前に暇さえあればたたずみ、ページをめくっていた。
 古典とはいえないのだが、懐かしい一冊を見つけた。宮崎市定『雍正帝−中国の独裁君主』。岩波新書の青版で、手元にある本は、1989年に増刷。確か今上陛下(現・上皇陛下)が愛読であったか何かということで増刷されたものであったように記憶している。大学に入って、すぐに日吉の本屋さんで購入した覚えがある。康煕帝と乾隆帝の間にあってあまり目立たない人物であるがその功績に着目し、東洋的君主の典型的姿を活写した名著である。
 一歴史学者の筆になる所為か、記述は実直素朴。珍しく平和で安定していた時代だったためか、時代活劇のような面白さは無い。しかし、雍正帝が政治をないがしろにせず、真面目に職務にあたっていた姿が、現実にやり取りした手紙の内容などから窺い知れ、その仕事ぶりだけでなく人柄をも想起することができるようになっている。資料の使い方など、実証主義的な姿勢がいかにも歴史学者らしく、爾来、宮崎市定の作品に魅せられたわたしは、この後に刊行される宮崎市定全集を学生時代になけなしのお金を投じて全巻購入するという暴挙するはめになったのは、まさに、この『雍正帝』という本のおかげである(2011年9月15日記)。

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