【読書雑記】冨谷至『中国義士伝−節義に殉ず』(中央公論新社、2011年)
冨谷至『中国義士伝−節義に殉ず』(中央公論新社、2011年)を一気に読み終えた。英傑譚では全くない。朝廷に仕えた文官の物語である。ただ、フィクションではなく、歴史学者らしい資料にもとづく評伝である。漢の蘇武、唐の顔真卿、宗の文天祥の三人が主人公。いずれもわが国でもよく知られた人物である。蘇武は、中島敦の『李陵』や菱田春草の『蘇李訣別』など小説や絵の題材として選ばれているし、顔真卿は、長らくわが国においては楷書のお手本として親しまれている(文天祥はあいにくこれまでのわたしの読書の範疇には入ってこず、この本でこの人物を知った)。いわんとするところは、東洋的noblesse oblige−筆者は「節義」と呼ぶ−の中身とそれがどうやって一個の人間の中に宿るか。noblesse obligeなど、いまどき流行らない議論なのかもしれない。が、あえてこうした本をものした筆者の意図こそ考えなければならないのだろう(2011年11月4日記)。