【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート3)

(三)「事業支配力が過度に集中することとなる」会社
 この「会社グループ」が「事業支配力が過度に集中することとなり」、法が禁止対象としているのは、次の3つの類型のいずれかに該当し、かつ、それにより「国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる」場合である(法九条三項及びガイドライン二-(一))。
・第一類型(財閥型)---「会社の総合的事業規模が相当数の事業分野にわたって著しく大きいこと」
・第二類型(金融支配型)---「資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きいこと」
・第三類型(系列型)---「相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めていること」
(1)第一類型(財閥型)
 第一類型は、かつての財閥のような場合を想定しており、現在においては主に旧財閥系企業集団を念頭に置いている。ガイドラインは、会社グループの規模につき総資産の合計が十五兆円超であること、そしておおむね五社以上の相当数の主要な事業分野(日本標準産業分類三桁分類のうち、売上高六千億円超の業種)(ただし、二桁分類で同一の業種に属し、参入規制が行われている範囲や事業活動の実態を考慮すると同一の事業内容であると考えられる場合は、同一の事業分野と評価する、としている(ガイドライン二-(二)-(c)))のそれぞれにおいて、別々の大規模な会社(単体総資産三千億円超)を有する場合をあげている。
(2)第二類型(金融支配型)
 第二類型は、都市銀行のような大規模な金融会社が一般の事業会社を支配するような場合を念頭に置いている。ガイドラインは、単体総資産十五兆円超の大規模金融会社と、金融又は金融と密接に関連する業務以外の事業分野の大規模な会社(単体総資産三千億円)を有する場合をあげている。
(3)第三類型(系列型)
 第三類型は、独立系企業集団を想定し、系列取引を助長するような経済力の集中を抑止することを念頭に置いている。ガイドラインは、相互に関連性(取引関係・補完関係)を有するおおむね5以上の相当数の主要な事業分野(日本標準産業分類三桁分類のうち、売上高六千億円超の業種)のそれぞれにおいて別々の有力な会社(シェア十パーセント以上または売上高上位三位以内)を有する場合をあげている。

(四)「国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなること」
 法九条三項は、会社グループが第一類型から第三類型のいずれかに該当し、これにより「国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる」場合に「事業支配力の過度の集中」ありとする。この要件は、過度経済力集中規制として意義付けられる法九条が、法の究極的目的として掲げられる「国民経済の民主的で健全な発達」に分ち難く結びついているのみならず、手段的目的たる「公正かつ自由な競争の促進」の前提を構成していることを示したものである。
 ただ、法九条は、もともと「事業支配力の過度の集中の防止」という観点から、これに連なる可能性の高い「持株会社」という企業形態を一律・外形的に禁止してきた経緯があり、「事業支配力の過度の集中」が、わが国経済において具体化・現実化することはそもそも想定されていなかった。もし仮に「事業支配力の過度の集中」が惹起されているのだとすれば、それは当然、「国民経済に大きな影響を及ぼ」すものと考えられ、「国民経済の民主的で健全な発達」にとって由々しき事態であると解されてきた。
 しかし、現行法における規定の構成は、法目的の上では予防されるべき「事業支配力の過度の集中」が直接禁止規定の要件となっており、これが大きな変更点である。
 しかも、その中において「国民経済への影響の大きさ」が当該要件を充足するための一要素となっており、そのことから、一見すると、既述の三類型の存在にもかかわらず、法九条を一種の弊害規制(かねてより財界等を中心として、これまでの「持株会社」に対する一律・外形的な禁止を改め、具体的な弊害が生じた場合に事後的に規制するべきとの主張がなされていた。例えば、『企業法制研究会報告書』(一九九五年二月)には、いわゆる弊害規制論としてつぎのような記述が見える。「持株会社を通じて事業支配力の過度の集中による弊害が生じた場合には、個別にその弊害を除去すれば足りるのではないか。具体的には、事業支配力の過度の集中の結果、互恵的な取引や長期継続的取引が生まれるなど何らかの競争制限的な弊害が懸念される自体が生まれる場合には、独占禁止法により別途個別に規制すればよいのではないか」と(II.-4.-(3)及びIV.-1.-(1)から(4))。)と解する見方も出てくることになり、まずこの点が問題となる。これに対しては、既に立法政策論として弊害規制論は採用し得ないことが明言され(「弊害規制論に立脚した規制方法をとることは適切ではない。……持株会社を通じた事業支配力の過度の集中の未然防止を図るという観点からは、個々の市場において具体的に発生する独占禁止法違反行為を除去すれば足りるというものではない」旨が、指摘されている(独占禁止法第四章改正問題研究会「中間報告」(1995年12月27日)6-(1))。)、また、解釈論としても、これを独立の要件としてその立証を違法と主張する側に負わせる趣旨ではないことが多くの論者によって指摘されている。したがって、この要件の解釈としては、いわゆる三類型に関する要件に該当したことをもって、ただちに「国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる」と解すべきだということになる。
 他方、「公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる」は、「国民経済に大きな影響を及ぼ」すと同様、「事業支配力の過度の集中」という要件の一構成要素であり、法一条にいう「公正・自由な競争」の「促進」は、主として公正取引委員会による「結合……等による不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束」の排除を通じて具体化される。ここにいう「促進」は、事業者に対する公権力の直接規制によってではなく、事業者の不当な行為の排除によって市場における競争条件を維持・確保するいわば間接規制によるものである。だとすれば、「……の促進の妨げとなる」とは、公権力による間接規制を妨げるような状況を惹起せしめること、ここでいうなら、少なくとも公正取引委員会が排除不可能な事業活動の支配(不当な制限・拘束)ないし集中が形成されることであろう。
 この部分は、いうなれば個々の事業者の競争行為の前提をなし、「……の促進の妨げとなる」状況は現行法上許容されるべきではない以上、理論的には「公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる“おそれ”」とするべきであろう。

(2024年5月5日記)

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