【独占禁止法叙説】3-2 規制の手法(パート1)

(一)法目的実現の方法
 独占禁止法は、その直接的目的として「公正且つ自由な競争の促進」を掲げている(法1条)。法はこの目的を実現するため、事業者や事業者団体等の行為を禁止・制限しているのみである。したがって、同法は事業者等が各々の事業の競争的展開を義務づけているものではないし、また、政府・公権力に対しても何らかの積極的な施策を講じることで新たな競争を生み出し拡大させる仕組みの創設を求めるものではない。
 なんとなれば、目的規定には、まず同法が禁止・制限する行為等を「不当な制限」ないし「その他一切の事業活動の不当な拘束」と捉えること、そして、法目的実現のために政府・公権力はこれらの制限ないし拘束の「排除」を主な手段として市場ないし経済に関与する旨を定めているからである。つまり、ここにいう「公正且つ自由な競争の『促進』」とは、事業者等に何らかの行為を義務づけることではなく、事業者等が行う競争制限・競争阻害行為を取り除くことで「公正且つ自由な競争」の条件を整えることを意味している。

(二)規制手法の類型:行為規制・構造規制・純粋構造規制
 法による規制の大部分は、私的独占、不当な取引制限あるいは不公正な取引方法など、市場における競争に悪影響を及ぼす事業者や事業者団体等の行為を広く禁止の対象とするものである。このことからも明らかなように、同法は事業者等に対する「行為規制」を中心に構成されている。
 他方、市場が非競争的に変化し、競争制限の状態が生じた場合、法は競争秩序維持の観点から、こうした市場の構造を競争的ならしめる措置を命じ得る旨を定めている。その一つが、法第4章に定める競争制限を内容とする企業集中の規制である。法は競争制限的企業集中行為を禁止し、排除措置としてかかる企業集中の解体を命じ得ることとしている(法17条の2、なお法18条参照)。なお、法3条・法19条違反の行為についても、企業集中行為がその手段ないし前提となっている場合には、右と同様、これを排除することができる(法7条・法20条)。このように、一定の行為が市場構造に有意な影響を及ぼし、行為の排除にあって何らかの構造的措置が要請される場合、これらを「構造規制」と呼んでいる。
 また、競争の結果、市場の独占化・寡占化が進行し、市場において有効な競争が全く期待し得ない状態に立ち至った場合、一定の要件の下、企業分割を含む構造的措置を命ずる旨を法は規定しているが(法8条の4、法2条7項・8項)、このように、構造的措置に先立ち何らの行為も介在していない場合、「構造規制」の中でも特に「純粋構造規制」と呼ぶ。

(2024年3月11日記)

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