【独占禁止法叙説】6-1 過度経済力集中規制

 法1条は、法により禁止・制限される類型として、私的独占、不当な取引制限および不公正な取引方法の禁止の他に、「事業支配力の過度の集中」の防止をあげている。ここでいう「事業支配力の過度の集中」とは、国民経済ないし特定の産業分野全体において、1または少数の者(個人または大企業・企業集団)が、その大きな部分を占めるようになることを指す。「事業支配力」を「経済力」と読み替え「過度経済力の集中」と呼んだり、「一定の取引分野」における集中−市場集中−に対応させ「一般集中」と呼ばれる場合もある。
 一般集中の問題を最初に指摘したのが、米国のA・バーリーとG・ミーンズの共著『近代株式会社と私有財産』(1932年)である。その著書のなかで、巨大企業及びそれを支配する少数の人々が、国民経済全体に対し大きな経済的支配力を持つに至ったことが指摘された。
 わが国では、一般集中の指標として「一般集中度」が公正取引委員会によりかつて公表されていたことがある。これは、総資産、資本金、売上高、付加価値、従業員等を基準に上位100社を選び、それらが法人企業全体の中でどれくらいの割合を占めているかを測定したものである。
 過度経済力集中規制(一般集中規制)は、実質的には、戦後形成された企業集団の形態をとる経済力の集中を主な対象とし、このことから企業集団規制とも呼ばれてきた。現在、金融機関の再編に伴い、これらの企業集団も再編・統合を繰り返しているが、これによってかかる規制の必要性は減じてきているとする評価もある。しかし、これらの規定によるか別として、新たな企業集団の形成に伴う経済力の集中を注視していく必要はいまなお失われてはいない。
 過度経済力集中規制の根拠として、これまで次のようなものが主張されてきた。①会社組織を利用することにより、少数のものが少ない資本で多数の事業者を支配できること。②経済力が政治に影響を与えれば民主政治が成立し難くなること。③企業の集団化に伴って生ずる集団内取引によって市場が閉鎖的になること。④個々の市場における競争上の優劣が、事業者の競争上の能力以外の要因に左右される結果、当該市場における取引慣行が不透明になり、かつ当該市場への参入が阻害されるおそれがあること。⑤競争の利点として事業者の創意の発揮を重視する視点からすると、斬新な技術の多くが中小規模の事業者によって生み出されるのを妨げるおそれがある等々、である。
 このように、わが国の独占禁止法は、その制定の経緯−戦前に存在した財閥を解体し、民主的な競争秩序を創出するという観点−から、その禁止・制限類型の一つとして「事業支配力の過度の集中」の防止が掲げられ、それが、究極的には「国民経済の民主的で健全な発達」にとって大きな意味を持っていると考えられてきた。
 過度経済力集中規制として、わが国の独占禁止法では、過度経済力集中会社の禁止(法9条)と銀行・保険会社の株式保有制限(法11条)とが置かれている。

(2024年4月8日記)


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