【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート4)

(五)「事業支配力が過度に集中することとならない」場合
 なお、ガイドラインにおいては、「事業支配力が過度に集中することとならない会社」として、特に、①純粋分社化の場合(自社が現に営む事業部門を子会社化し、かつ、当該子会社の株式を百パーセント取得する場合)(純粋分社化により、規模や支配力の範囲が拡大するわけではなく、会社の組織形態が変更に過ぎないから、これにとどまるかぎり、事業支配力の拡大・集中の問題は生じないとの理由よる。)、②ベンチャー・キャピタルの場合(会社が、証券取引所に上場されておらず、かつ、店頭登録会社でもない株式会社のうち、資本の額が五億円以下のものであって、試験研究費及び技術開発費の合計額の収入金額に対する割合が三パーセントを超えるもの、または設立の日以後一年を経過していないものであって、常勤の研究者の数が二人以上であり、かつ、当該研究者の数の常勤の役員および従業員の数の合計に対する割合が十パーセント以上であるものに対する出資を業務とするいわゆる「ベンチャー・キャピタル」である場合である。ベンチャー・ビジネスは先端技術の研究開発を主たる事業とする事業者であり、その発展を支援することは有益であるが、出資に伴う危険が大きいため、ベンチャー・ビジネスに対する出資を別法人であるベンチャー・キャピタルを通じて行うことが危険分散のために必要であるとされる。ベンチャー・キャピタルは、出資を主たる事業とするが、その存在は、先端技術の発展を担うベンチャー・ビジネスの育成のために必要不可欠である。また、出資の対象となるベンチャー・ビジネスは規模が限定されている。これらの理由からベンチャー・キャピタルについては事業支配力の過度の集中の防止という法の目的ないし趣旨に違背しないとされる。)、③金融会社の相互参入の場合(金融会社が異業態の金融会社を新規に設立することによって相互参入する場合)(金融自由化により業態間の相互乗り入れが認められ、これに伴い異業種への新規参入が活発に行われることによる金融業における競争の活性化を企図して子会社方式による新規参入を容認することとした。ただし、これは新規参入の場合に限られ、それ以外は第三類型による規制に服することとなる。)、④小規模の場合(会社と子会社の総資産を連結して合計した額が3000億円以下である場合)(本規制は、事業支配力の過度の集中を防止するとの趣旨であるから、規模が小さい場合には、そもそも対象とはならない。)の四つの例を挙げている。
 これらは、独占禁止法第四章改正問題研究会「中間報告」において、例外的に許容する持株会社の類型として限定的に列挙されたものだが、現行法においてこれら四類型は例示に止まるとされる。

(六)報告・届出義務
 会社とその子会社の総資産の額が、持株会社(後述の第三節を参照)の場合には六千億円、銀行業、保険業又は証券業を営む会社の場合には八兆円、これ以外の会社の場合には二兆円を超える場合には、毎事業年度終了の日から三ヶ月以内に、当該会社及びその子会社の事業に関する報告書を公正取引委員会に提出しなければならない(法九条五項)。また、新たに設立された会社が、当該会社の設立時に法九条五項に該当する場合には、その設立から30日以内にその旨を公正取引委員会に届出なければならない(法九条六項)。

(2024年5月13日記)

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