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エナジー

 今日は早く目が覚めた。身支度を全部済ませて1階に降りるとボスはもう仕事に取り掛かっていて、柱を玄翁で叩きまくっていた。
 ん?なんだこの違和感は。…叩きまくっていた?叩きまくっていたならものすごい音がするはずだ、でも俺が起きたのはうるさかったからじゃない。ボスは依然として柱に釘を打ち付けている。その身振りだけでカーンと音が響きそうなのに、玄翁は無音で柱と衝突している。
「よぉ起きたかよ。」ボスは振り返った。大工だけどボスはボスであり親方じゃない。親方って呼び方は洒落ていないと言ったのはボスだったか俺だったか覚えていない。
「さっき急に100年後になってよ。」
親方は玄翁をたたき続けているのに、枠組みだけの建物に何故かボスの声だけがしっかりと響く。
 待てよ、この建物は枠組みだけじゃないか。俺はどこから起きて階下に降りてきたんだ。そういえば今急に100年後になったとか抜かしてたよな。だったら俺のこの小さなワープもそんなもんか。急に100年後になることがあるなら、無いはずの2階から目覚めることなんてちょっとした世界のバグだろうよ。
俺が状況を整理している間も親方は続ける。
「そしたらこれがこうなってたんだよ。従来のトンカチはよ、ほとんどが音エネルギーになっちまってて無駄だったじゃんかよ。それがな、こうなったんだ。だから一振りでも釘がさせる。」
音エネルギー、懐かしいな。そうか、未来には省エネをモノにも求めるようになったのか。音エネルギーなんて無駄でしかないしな。それに俺はこんな仕事やってっけど、やっぱせっかくの休みだってのに工事の音とかたまったもんじゃないもんなぁ。そりゃそうかぁ。
「ところでおめぇ、さっきからちょいちょい親方って言ってんじゃねぇか。やめろよそれ、オレ嫌いなんだよそれ。」
ん?ああすんませんボス。そうか、俺の心の声も聞こえているんだな。これも省エネってやつか?
 そうだよなぁ、伝えるために声を出すなんて、エネルギーが勿体ないよな。

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