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コーヒーを飲むこと

 私はコーヒーを毎朝飲んでいる.通学途中にコンビニでコーヒーを買い,片手に持ちながら好きな音楽を聴き,登校する.習慣だ.きっかけは浪人時代あるいは『プラダを着た悪魔』に憧れて.(なぜニューヨーカーは,毎朝コーヒーを片手に出勤するだけでこちら側の気持ちを掴めるのか?)実際のところ,浪人時代のコーヒーの思い出としては,苦い,それだけ.眠気覚ましに予備校の裏にあるセブンイレブンでアイスコーヒーを買い,垂れてくる水滴と闘いながら教科書を眺めていた.しばらくの間は,浪人時代を想起させるコーヒーが苦手だった.

 私は2年前,カフェでアルバイトを始めた.ここで働く人たちは,みんな等しくコーヒーを愛していた,きっと嗜好品として,それは日常の一部ともなっているように思う.出勤すればコーヒーを淹れ,一服し,仕事に取りかかる.初出勤日,ひと通りの仕事を教えてもらった後で,アイスカフェオレの淹れ方を教わった.まずグラスに氷を入れ,ミルクを入れ,氷にコーヒーを当てるようにして注ぐ.これで綺麗な2層のカフェオレができる.それ自体が可愛いと思ったし,私もコーヒーを愛したいと思った.

 父もコーヒーを飲む.我が家には当然のようにコーヒーが常備してあり,食後には,母が父にコーヒーを飲みたいかと尋ね,父は必ず母の出すコーヒーに口を付ける.また休日の午前中,母が不在であれば,父は自身でコーヒーを淹れ,ニュース番組を観ながら,飲む.彼にとってのコーヒーもまた,生活の一部である.

 何かしらの作業をするためにカフェに入れば,コーヒーをオーダーする.ミルクを入れるか,ホットにするか,そのどちらもであるかは,その時の気分や季節によって変わる.朝,まだ少し肌寒さを感じながらベランダで飲むコーヒーはとても美味しいし,期限の迫った課題を前にして気合入れのために淹れるコーヒーには,普段より多めに豆をいれる.こうして気づかないうちに生活の質を上げようとしているのか?

 小学生の頃,弟がビンゴ大会で1等をとり,弟の物即ち私の物になる景品はどれかと(まるでジャイアンみたい),机に並んだテレビやゲーム機に目をやり,ワクワクしながら待っていた.彼はコーヒーメーカーを選んだ.喜んでいたのは彼だけであった.彼の頭の調子をあれほど伺った事はない.交通事故以外では.

 コーヒーメーカーのレビューを見漁り,購入を検討しながらこの出来事を思い出した.あのコーヒーメーカーは一体どこへ行ったの?


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