『暗い』#143

夜中、布団の中でスリフリと画面をいじりながら書くことが少なくない(私の「少なくない」基準、割合はおよそ4割5分、45パーセント)。じぶんの部屋で書いたらいいのだけれど、最終的に布団の中でもいいかと思ってしまって、睡眠前の最終地点に流れ着いてしまう。うちは家族みんなで雑魚寝なので、画面をむこうに向けて打ち込むことも憚るので毛布の中にごそごそと潜る。なるべく物音を立てないようにして淡々と打ち込む。中学生や高校生のころの深夜のメールと、スタイルは変わらない。あのころはボタンを打つ音で「うるさい」とバレたりもしたが、タッチパネルのスイスイ音は外にはほとんど、聞こえない。フリック音に関しては、電話中の相手に画面を擦る音が聞こえるが、こちら側の耳には届かない。
暗い空間は人間にとって、視覚情報が極めて少ない隙だらけの空間で、そこでは静かに身をひそめて耳や鼻や肌で得る情報に注意する空間があり、一方でさらに耳を轟音で埋める薄暗さ、音楽のリズムを体内に取り込み、肌と鼻と、削ぎ落とされて鋭敏になった視覚情報を元に快楽を高める空間もあり。得られる視覚情報を絞った空間での振る舞いはヒソヒソとケータイをいじる方向性ばかりではない。
暗い。科学的知識の深層の方面には暗い。世界を満たす知的海面の表層に浮かんでくる短い見出しとニュースリンクに飛びついて、面白い分野の研究があるんだなと、へぇと膝を打つ。打たれた膝は興奮に屈伸運動をする。命令を送る司令塔、脳は、膝を打って満足する。脚に反射的に送られていた激しい血流もまた穏やかになり血色は暗く。
その関心の伸びなさに心は暗澹としたようす。擬音語なら「どんより」。曇り空か、心か、という限定的な擬音語だが、空は曇り模様に対して使うのに対し、心は曇り模様に加えて暗さにも使う、心に限定的な、どんよりとした暗さがあるのだ。
心なしか布団の中で書く文章もどこか、起承転結があれどどこか、上がりきらないテンションと見え隠れする暗さがあるように、思われていたらそれはそれで面白いことかと思わなくもない。

#暗い #180510

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