紙飛行機(1)


第1章 戦火の青春

隆司へ

元気にやっていますか。きっと大学生になって、充実した日々を送っているだろうと思います。
実はこの前、主治医からもう命は幾ばくもないと言われました。覚悟はしていましたが、さすがに胸にこたえます。
そんなこともあって、何か形になるものを遺したい。そんな思いがこの頃あふれてきました。そこで、ひとつ人生譚でも書いてやろうという気になって、今このノートに書きつけているところです。
きっと隆司はなぜ自分にだけこんなものを遺そうとしたのか疑問に思うでしょう。実は今のじいちゃんにも分からないのです。ただ、このノートを書き終えたとき、その答えが出ているのかもしれない、そんな期待をしているのです。
貴司も歴史の授業で習っただろうから知っていると思いますが、じいちゃんの若い頃、日本は今のように平和じゃなくて、外国と戦争をしていました。
あれは昭和7年だったと思いますが、支那との戦争が長引くなか、アメリカは満洲への進出を虎視眈々と狙っていました。日本はその動きに対抗するために五族協和といって、満洲族、漢民族、蒙古族、朝鮮人、日本人が互いに手を携えて満洲国を建国しました。
最近では、満洲は日本の傀儡国家だと批判されますが、あの当時の日本人の満洲へ懸ける思いは想像を絶するほど熱烈なものがあったのです。
しかし、満洲国の建国に端を発して、日本は国連を脱退し、支那事変を境に泥沼の戦いに入ってゆきました。
そして、昭和16年に日米開戦の火ぶたが切られ、「大東亜戦争」(貴司は「太平洋戦争」で習っているかもしれませんが、じいちゃんの世代にはこちらの名称の方がしっくりくるので、この名称を使います) が始まるのです。この3年後の昭和19年、24になったじいちゃんにもとうとう召集令状が届きました。

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