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『虎に翼』は私(たち)の物語だ

『虎に翼』、第一話から引き込まれている。「これは私(たち)の物語だ」と思うし、ドラマの各話から自分が働く女性として経験してきた様々なことを思い出されては反芻し、自分ごととして語りたくなる。

従来の朝ドラはいわば「女性版桃太郎」

何十本もあるNHK朝ドラマ、一言で言えば「女性版桃太郎」だと思う。近ごろは男性が主人公になったり群像劇であったりバリエーションはあるけど、単純化するとこんなストーリーが主軸だ。

地方で伸び伸び・天真爛漫・素直に育った少女が、都会に移り、働く中で様々な障害・壁や敵・ライバル・仲間たちと出会い、結婚したり子供を育てたりしつつ、幸運や人々の協力で成功を収め、故郷に錦を飾る。

その障害・壁の中には、たとえば女性職人が存在していない職人社会に飛び込み、男性中心の社会であるがゆえにヒロインにとってのチャレンジや逆境が表面化することがある。しかし、たとえばその職人社会の中で経験や能力がずば抜けたシニア男性がヒロインの前向きさ・情熱、ひたむきさや天真爛漫さや素直さを認めるきっかけがあったりして、初めて女性職人として迎え入れられ、その世界での地歩を築いていくサクセスストーリーだったりする。

なので、ドラマの中ではヒロインが男中心社会に飛び込んで経験する逆境や壁や敵は「あれ、何か頑張っていたらどこかに消えてしまった」みたいな展開になることもしばしばある。成功したヒロインには「よくやったね、すごいねー」と大団円となってしまう。

そこが、朝ドラを「私(たち)の物語」と私が感じることができないネックだった。自分の人生や経験が重ならないのだ。

「スンッ」を描く『とらつば』

『虎に翼』は第一週からして違った。ヒロインは自分らしくあろうとして見合い相手を怒らせてしまったり、結婚式を準備してきた女性陣が結婚式の場では「スンッ」としている姿(ヒロインは父に促されて歌ったが、はやし立てたり踊ったりするのはみな男性で、女性たちは席についたまま静かに見ている)に違和感を感じたりしている。そして「はて?」という言葉を投げかけることで、なぜそうすることが好ましいとされるのか、という前提や価値規範をあぶりだそうとする。

「スンッ」は女性たちだけのものではない。初の女子部の学生たちに「魔女部」と揶揄する男子学生たちも、帝大生の前では「スンッ」とする。そして法曹界のエリートやその予備軍である帝大生も、検察の前では「スンッ」となる。

権力だったり権威だったりカースト的な社会規範(何しろ女性は法的に「無能力者」とされる戦前であるし、貧富の差も激しいし)だったり、「スンッ」とさせるものの本質とヒロインや周囲の人々がどうそれと向き合うのかはこれからの見どころであるけど、第4週までの時点で『とらつば』は「私(たち)の物語」だ。従来の朝ドラでは向き合って来なかったところに斬り込むドラマを、最後まで応援したい。





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