~”今”という時間を大切に~
新型コロナウイルスに世界中が苦しみ始めて約2年たった今、多くの人がコロナの蔓延を恨み、一刻も早い収束を願っています。
しかし、本当にコロナはただの悪者なのでしょうか。私たちにネガティブなものしかもたらさないのでしょうか。コロナもきっと何かしらプラスの面も持ち合わせていると思った私は、主に東アフリカで活動する日本人から、コロナをポジティブにとらえる方法を学ぼうとしています。
第10回目は、ルワンダでイミゴンゴという伝統アートの調査を行っている、加藤雅子さんです。
大学にて比較文化やスワヒリ語を学びますが、大学1年生まで途上国に良くない印象を持っていた加藤さんは批判ばかりし、周りにもそのように話していたそうです。それを聞いた大学の先輩にある日呼び出され、間違っていると怒られた上に、アフリカの色んな側面を紹介する講義に連れていかれました。その90分間の授業で加藤さんの考え方は180度がらりと変わり、それまで誤解していた反省と後悔の気持ちから、ケニアに謝罪に行こうと決めます。そして翌年にあった学校の研修にて、ケニア(アフリカ)の魅力にハマってしまったのです。
卒業後は異動を狙って、ケニアにも支店のある、東京ベイエリアのホテルに勤務しますが、管轄が違ったため叶いませんでした。しかし、当時の彼(今の夫)に結婚をほのめかされた際、冗談半分で結婚条件として「アフリカに仕事を作ること」を求めると、なんと本当にルワンダで仕事を見つけてきてくれます。そうして晴れて、結婚とアフリカ移住を手に入れることが出来ました。夫が見つけてきた仕事は、某IT企業がアフリカ事業として作ったルワンダオフィス勤務でしたが、その後転職し、夫はガーナに単身赴任することになります。ルワンダ生活の中で、その魅力にすっかり取り憑かれてしまった加藤さんは、引き続きルワンダに残り、地に根付いた文化や伝統工芸を知りたいと、散歩中に出会ったイミゴンゴを扱うようになりました。体が合う国がお互いに違っため、別居という形にはなっているものの、やりたいことが思い切り出来る今の生活を楽しんでいるそうです。
*ルワンダの伝統アートであるイミゴンゴは、仔牛のふんと灰を混ぜた粘土でデザインを作成し、やすりをかけて色を塗ることで、特徴的な幾何学模様をつくりだすものです。(詳しくはこちら)
コロナが始まって2年も経ち、生活が普通に戻っているため、あまり覚えていないのが正直なところだという加藤さんが、改めて振り返ってみたコロナは、「時間の大切さを知る」期間だったそうです。
本格的に世界でコロナが流行り出した2020年3月頃まで、加藤さんは日本に一時帰国していました。日本でも本格的になってきたころにルワンダに戻り、なんとその翌日にロックダウンで空港などの封鎖が発表され、滑り込みセーフだったそうです。そして、その最初の2・3か月のロックダウンは、家から出てはいけない厳しいものでした。ご飯を買う、病院に行くなど、必要最低限のことさえも、許可証がないと外に出られません。人生で初めて外に出られないという体験をし、加藤さんは、自分の体にどんな変化が起こるかを日記に記録し始めたそうです。それによってだんだん声のボリュームが下がる、動きが遅くなるなどを体感します。外には端というものが存在しないため、体や考え方が拡張されることを改めて感じ、家という、限られた「端」のある空間にいることで、体の動きや考え方が変わったそうです。このように、日々自分に起こる変化を知るのは面白かったといいます。急に生まれた時間によって、今まで振り返らなかったこと・感じなかったことに目が向くようになり、振り返り期間としてすごく良かった、と話されていました。
その振り返りの中で、「より暇にしておくこと」が自分にはいいと気づいたとも言います。つまり、自由時間を多く持ち、予定を詰めすぎたり先まで予定を組まない、ということです。コロナ下で時間がたっぷりとあり、その時間を使って様々な事を考えることが出来ましたが、その時間がとても好きだったそうです。そのためこの時間を多く取りたいと思うようになり、暇な時間、静かな時間を取るようにしよう、人と関わらない時間も取るようにしよう、と思うようになりました。人によって隔離期間の捉え方には個人差があると思いますが、加藤さんにとってのこの期間は楽しく天国のようで、ご自身に合っていたようです。
オンラインツアーの様子
また仕事面では、観光が出来なくなったため、オンラインツアーを開始しています。あらかじめ録画しておきそれを解説しながら見せることもあれば、生中継で見せることもあります。実はコロナ下に入ってすぐの頃、加藤さんはカンボジアのオンラインツアーに参加したそうです。それは家の周りを散歩しながらヤシのジュースや揚げ団子を買ったりするだけのものでしたが、少人数制だったため気になったものについて「それなんですか」「どんな味がするんですか」と質問することができ、「じゃあ買って飲んでみましょう」、といったようにリアルに反応して動いてくれたそうです。実際に自分はその場におらず、空気も味も感じませんが、代わりにアバターのように動いてくれるそのツアーはとても面白かったそうです。生中継のオンラインツアーはその経験を活かして開催しているため、リアルでおススメだと話します。電波が悪く思うようにいかないことが多いですが、逆にそれが遠さを感じる一助になり、よりリアリティを生み出しているといいます。また、画面という制約はありますが、普段はルワンダに来られない人も参加でき、さらに普通の観光では逆に出来ないことでもあるため、コロナ後も続けたいと考えているそうです。
こういう時期でも出来るプログラムを探している学校や塾から声を掛けられ、企画することも多いそうですが、大人より子供向けに提供する方が面白いと感じているといいます。それは、「子ども達からくる質問が面白過ぎる」「絶対大人じゃしない質問をする」からだ、とのことです。例えば「なんでルワンダの草はそんな緑なの?」「お店の商品に黄色いものが多いのはなんで?」といったような、純粋で無邪気な子どもの質問にいつも驚くそうです。普通、研究や調査をするときは、ある程度予想をつけてそれを確かめる形で進め、加藤さん自身もそうされています。しかしその場合、早道になることもありますが、違った場合に元の位置に戻りづらいという欠点があります。バイアスがなければすべてフラットに見て、どれが可能性があるか全体を見ることが出来ます。大人になると、それまでの経験から絞りたがり決めたがり癖が出てしまい、安全な方に行きがちですが、子ども達の純粋なスタンスを見習って、自分の仕事に生かしたいと話されていました。
3人の職人さんたち
さらに、作り手さんと一緒にいるだけの時間が大切だ、ということもコロナ下で気づいたといいます。今までは調査地の工房に行くと、調査の一環として聞きたいリストがあって、質問したら終わり、という時間の過ごし方でしたが、そうではない関係性作りや時間の使い方もあるのでは、とコロナ下で家にいたときに考えたそうです。オンラインで伝わらないものがあるのと反対に、何も話さなくても、その人と共にいるだけで得られる情報もたくさんあると気づいたのです。そのため現在は、調査地に毎週通い、ただ職人さんたちと時間を共にして、彼女らの様子を眺めたり話していることを聞くだけの時間を過ごしているそうです。それによって、これまでよりも感じられるものが沢山生まれていると話します。
そんな加藤さんにコロナ後の計画を聞くと、コロナ下で特に気持ちや生活の上がり下がりはなく、それ以前とあまり変わらなかったため、これからも同じように生活していくとの回答をしてくださいました。しかし、仕事を詰め込み、怠けるのは悪、目標は達成して当たり前と思い、目標達成のために逆算してきっちりとしたロードマップを作って管理していた加藤さんは、アフリカに来てから寄り道しながら目的を果たすのも一つの生き方だと思うようになったそうです。目標を立てて一直線というのも得られるものはありますが、途中に面白いものがあっても当初の道からずれるものは避けてしまい、たまに現れるキラキラした面白イベントを逃してしまいます。そのため、今では細かい計画を立てるのはやめ、遠回りでも多くの経験をしながら目標を目指すようになったと言います。コロナ期間はその考えをより強化したため、これからは「今」の時間を大切に、そこからより多くの情報を得られるように生きていきたい、と話されていました。
加藤さんからは、その一瞬一瞬からも得られることがあるという、時間の貴重さを学びました。日本にいると忙しくて忘れてしまう、この重要な観点を改めて教えていただき、私も意識して”その時”を大切に生きていきたいと思います。
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