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いつかどこかで同じ景色を見たい

母に久々に電話をかけると、飲み会中の楽しげに酔っている母が応答してくれた。
不定期に一人晩酌の様子の写真を送ってくれるので、お酒が好きなことは知っているが定期的に飲み会に出向くようになったのはここ数年だと思う。ビールも日本酒もワインも好きで、カクテルだとジントニックが一番という母は私の前ではあまり酔った姿を見せたことがない。母の実家に帰り、同い年の義弟と笑いながら酔っていた記憶があるのはもう10年くらい前になる。基本的に母が酔うより先に私の酔いが回るのが早いためか、今日は本当に久々に酔っている声を聞いた。

母は基本的に真面目で継続力のある人だが、せっかちで早とちりしてばかりのぽんこつである。母のぽんこつエピソードは書き始めたらキリがないので割愛するが、憎めない、とっても愛らしいぽんこつだ。愛らしいと思えるのは彼女が持ち合わせた天性の才だろう。

今年の1月に53歳になった母は、GWに確か岡山に一人旅をしていた。去年あたりは京都に行っていた気もする。私は一人旅に対してどうも苦手意識が拭えず未だ挑戦できていないからこそ、一人でも寺院や図書館、美術館に足を伸ばしカフェで好きな本を読める母が羨ましい。いつかは海外まで飛び出していきそう、むしろ行ってほしいまである。いやスペインでサグラダファミリアを見たいと話していたから本当にいつか行きそうだ。
それから母は何か新しいことを始めるたびに私に嬉しそうに話す。
昨年末には1月にティラノサウルスレースに出るの、と嬉々とした表情で過去のレース動画を見せてきた。私が高校生だったころ母は前触れもなくスペイン語を習い始め、そこで出会ったラテン音楽を嗜むおじいちゃんとよくカフェで勉強をしていた。

母のことを少女のようだと何度思ったことか。母は父のことをいつまでも子供のままの人だと話すが、私には母の方が十分子供らしいと思える。ころころ変わる表情、しょうがないなとつい言ってしまう愛嬌、そして私よりも世界に色がついている彼女は物事の楽しさを見出すことに長けている。大人になったら忘れてしまう子供心をいつまでも持ち合わせている。母はどんなことでも素直に、健気に、一生懸命に受け取れるのだ。

母の年齢はすでに書いてしまっているが正直彼女からしたら年齢はただの数字じゃないだろうか。75歳までに生き切ると宣言をされてもう5年ほどになるが、残りの20数年を全力で生きるのだろう。
性格が真反対だからこそ一層輝いてみえる彼女はいつまでも私の先で手を振っている。いつか、どこかで追いつけたら。

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