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『日日是好日』


5本目は初回ぶりに邦画の感想を書いていこうと思います。

2018年に公開された『日日是好日』。

現在Amazonprime会員の方はPrimevidoにて無料で観れますので是非。


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あらすじ


たちまち過ぎていく大学生活、二十歳の典子(黒木華)は自分が「本当にやりたいこと」を見つけられずにいた。ある日、タダモノではないと噂の“武田のおばさん”(樹木希林)の正体が「お茶」の先生だったと聞かされる。そこで「お茶」を習ってはどうかと勧める母に気のない返事をしていた典子だが、その話を聞いてすっかり乗り気になったいとこの美智子(多部未華子)に誘われるまま、なんとなく茶道教室へ通い始めることに。そこで二人を待ち受けていたのは、今まで見たことも聞いたこともない、おかしな「決まりごと」だらけの世界だった――。  (Filmarks




雑記


監督の大森立嗣は『まほろ駅前』シリーズや『セトウツミ』のような日常系の映画から、『さよなら渓谷』や『光』などのエネルギッシュでシリアスな映画まで幅広く撮っているイメージがあります。

そして惜しくも樹木希林の邦画においての遺作となった今作。

ここ数年はとても大きな俳優の方々の訃報を聞くことが増えたので、今観れるものに対する価値を、改めて再認識させられることが多いですね。



感想


「私は本当にしたいことが分からなかった」

冒頭は主人公である典子のこの言葉を表すようなありふれた日常描写から、ふとしたことで訪れた茶道教室における静謐な空間表現がとても見事でした。

この作品は何度も季節が巡っていくのですが、その度に茶室から覗く庭の木々・着物・お茶菓子などなどから季節の移り変わりを感じることができます。

また、印象的なのが水の音です。

お茶をいれる際のお湯と水の音の違いや秋雨よりはやい時期に降る雨の音など、目や耳で四季よりもっと細かな季節を画面越しに味わうことができます。

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また役者陣の演技もとても作風にマッチしていて良かったです。

主人公である典子役の黒木華は横顔のカットが印象的で、不安や焦燥や決意など様々な感情をとても綺麗に表現されていたなと思いました。

また、20歳~40歳という期間の演じ分けはとても見事でした。

多部未華子演じる美智子はこの主人公と対照的なキャラクターとして描かれます。卒業→就職→結婚→出産という、いわゆる「人生」を歩んでいく美智子に対して主人公の典子は焦りや不安を隠せません。

この作品、お茶をたてる場面では静謐さや美しさが特徴的ですが、この典子と美智子が2人だけでいるシーンは青春映画を観ている時のような共感性や、お茶のシーンの時とはまた違った美しさがありました。

それぞれが互いのシーンにおける主人公の感情や成長を補完しあっていてバランス感覚の優れた演出方法だなと思います。

そしてなにより樹木希林の演技が凄まじい

画面に出てくるだけで、喋るだけでその場面に厚みが加わる感覚は圧倒的です。

ユーモラスだったり厳しさがあったり、仕草や息づかいでそのシーンの方向性を観客にビシッと提示してくれるので、より作品にのめり込むことができました。

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さて、タイトルでもありこの作品全体を通して語りかけていたメッセージである

日日是好日

この言葉はいわゆる禅語(禅の教えみたいなもの)のひとつであり、要約すると「毎日毎日が素晴らしい」的な意味らしいです。そしてこのロジックに至るために「今この時を大事にしよう」という言葉であるといわれています。

主人公である典子の半生は、素朴かつドラマチックです。そんな彼女が壁に当たる度に、この言葉の意味を少しずつ少しずつ理解していきます。

反芻することで自然と身に付いていく茶道の所作、雨音、夏の暑さ、冬の寒さ、風の感触。そういったものを五感で感じ楽しむこと。今感じられることを喜び楽しむこと。

彼女はこういった、多くの人が意識せずに通りすぎていく当たり前にあるものを享受することこそが日日是好日であると最後にたどり着きます。

幼少期に観てつまらなかったフェリーニの『道』という映画を今の私が観たら止めどなく涙を流してしまう。

彼女の最後のこの言葉こそがその証左だなぁと感じました。

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今作では茶道を軸としていますので、茶道から生まれた言葉である

一期一会

この言葉も作品で重要な役割をもちますが、奇しくもこの作品が樹木希林の遺作となったことで観客にもまた特別な意味をもたせることになりました。

「今」私がこの作品を観て得たものや感じたことを大切にしたいと思います。




あとがき


とても暖かくて素敵な作品でした。

人によっては退屈だと感じてしまうかもしれませんが、とても綺麗で、多くの人に刺さるメッセージ性をもった映画だと思います。

ただ、演出やストーリーの部分でわざとらしいドラマチックな表現方法が少しあったのですが、それがこういった作風からは浮いてしまっているような印象を受けました。

まぁ、ここら辺は完全に個人的な好みの問題なのでほとんどの人は全くお気になさらずに楽しめると思います。

あとは多分男性より女性の方が受けがいい…かな?




最後に


ここ何本かはちゃんと最近の映画について書いていたので、次あたりで旧作について書くか、サブスク系で観れない最新作について書くか。う~ん…って感じです。

またよかったら読んであげてくださいな。



2020/11/01

hyve



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