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『君の名前で僕を呼んで』


2週間サボったので今週は書きますとも。

6本目は2017年に公開された、イタリア・フランス・ブラジル・アメリカによる合作作品『君の名前で僕を呼んで』について書いていきます。

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あらすじ


1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく……。 (公式サイト




雑記


監督のルカ・グァダニーノはリメイク版『サスペリア』の監督ということで、なかなかフィルモグラフィーの緩急がエグいなと。というか『サスペリア』が特異なだけかも。

そして主演はこの作品でこの年のアカデミー主演男優賞をとったティモシー・シャラメ。

この男がまたとんでもなく美しいんだ…




感想


正直感想を書くことが憚られるほど美しい映画でした。

話としては「17歳の少年のひと夏の恋」という題材に同性愛というテーマを添えていた、割とありふれたもの(昨今では特に)なのですが、そんなことを気にする間を与えられない素晴らしい作品だと思いました。

ーー

主人公であるエリオが考古学教授である父の助手として訪れてきた大学院生のオリヴァーと出会うところから物語は始まります。

裕福な家庭で両親との関係も良好であり聡明なエリオの世界は、物語の冒頭の時点である種完成されており、そこに現れたオリヴァーをエリオは異物のように感じ、接し方に戸惑うような素振りを見せます。

しかしなぜかオリヴァーを目で追ったり、彼の言動や機微に対して心を動かしてしまう。そしてそれが恋慕であると徐々に自覚していく。

自分の抱いている感情が公にできるものではないとわかっているゆえのもどかしさに1人苦しむ姿は若さと痛々しさがよく表れています。

ここのエリオの17歳の等身大感はとても青く甘酸っぱく、気づいたら彼に感情移入しているようなとても繊細で美しい描写が目立ちました。

そしてここまで多くの人がエリオの視点で物語をみるように演出されていましたが、2人の気持ちを確かめあうシーンでは一転、オリヴァーに感情移入させるような演出をしていて彼らが同等の愛情と恐怖を抱いていることを観客に理解させます。

「君には知らないこと無いのか?」

「重要なことは何も知らない」

彼らはお互いの気持ちを密かに確認し、共有します。

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そして愛し合ったのちにオリヴァーから

「君の名前で僕を呼んで。僕の名前で君を呼ぶ」

エリオをオリヴァーと、オリヴァーをエリオと互いに囁きあう。

思うに名前とは、最も自らを証明しうるアイデンティティなのです。

公にできない関係であるからこそ自らの名前を互いに与えあうことで2人の間にある愛情を確固たるものにするための究極の手法なのではないかなぁと思いました。

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さて、互いに愛し合っていながらも、これはひと夏の恋の物語です。初めから別れが必然的に訪れることを提示されています。

夏の終わりに2人で旅をし、オリヴァーはエリオのもとを去ります。

別れの前の2人旅のシーンは一見幸せの絶頂にいるような明るさを持ちながらもそれが時限付きのものであるということが分かっているため、線香花火のような儚さが醸し出されていて感情がぐちゃぐちゃになりながら観ていました。

そして旅から帰りオリヴァーと別れたエリオと父親が会話するのですが

「今はただ悲しく辛いだろう。だが、痛みを葬ってはいけない。お前が感じた喜びをその痛みとともに葬ってはいけない」

この慈愛に満ちた言葉には正直泣きました。

この言葉からわかる通り、この作品はやさしさと寛容さが土台にあります。

同性愛を扱う作品においてはよくリアリスティックに描くためや、カタルシスを持たせるために第三者を障害として設置することが多いのですが、今作では息子の気持ちを知りながらも尊重する両親が存在し、2人の関係を揶揄する人間などが登場しません。

優しい世界での1つの苦い別れというものをただただ繊細に描いています。

ーー

1983年夏の北イタリアの青々とした緑や歴史的な建造物、川辺の涼しさ、どの場面を切り取っても美しく、そこにピアノを主とした劇伴が情景の美しさを際立たせています。

個人的にはところどころなんとなくジブリっぽい夏感を感じる部分があったため日本人の細胞に響く情景なのかもしれません。

またたびたびでてくる「古代ギリシア」というワードには同性愛に対して寛容であった時代に対する憧憬の念が感じられました。




あとがき


やさしさと寛容さというベールに包まれた今作。

人も情景も音楽もすべてが美しく

現実世界に再現性がないとも思えてしまいますが、ふとしたところでリアルな部分が垣間見える絶妙さを持っています。

大切な人がいる方はぜひ一緒に観ていただきたい作品だと心から思いました。




最後に


毎週投稿は案の定サボってしまいましたがこれからも気ままになるべく毎週投稿していきたいなと思ってます。

そして想像より多くの方に読んでもらえているのでうれしい限りです。

自分の好きなものをアウトプットする場所があるって幸せ~~

ではまた、おそらく来週に。



2020/11/22

hyve



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