1時間前

 二月一日の秒針は無条理に回っていく。日が暮れて、人がいなくなって、勤務先のパン屋ももう閉まってしまった。あと数時間で、私のティーンは終わる。
 ティーンだと浮かれていたのは、いつだっただろうか。まだ「プチベリー」なんて名前の、親から与えられた少女向けファッション通販誌を、ご機嫌で眺めていた頃だったか。中学一年生の終わり。何気ない日々の楽しみはほんとうに幼くて。世界は狭かった。でも、心の中の世界だけは、今より広かった。
 そんな無邪気で楽しかったティーンが、終わってしまう。
 二十歳になってしまう。
 それが、すごく、嫌だ。
 寂しい。苦しい。
 でも、一方で、二十歳になったら誰とどこに飲みに行こうかと画策している自分もいて――わからないのだ。自分が、この先を生きたいのか。それとも生きたくないのか。
 生きたくない。行きたくない? 進みたく、ない?
 ああそうか――今という時間を楽しめているかどうか、よくわからない私は、無垢な時代を含んでいたこの「ティーン」を、手放したくないんだ。戻りたい、何も考えずに楽しめていた頃に戻りたいなんていう、どうしようもない願いを抱えているせいで。苦しさがデフォルトでそばにいる状態のこの私と一緒に、二十代の一ページ目を始めたくなんてない。二十歳になんて、なりたくないんだ。
 また一分進む。十代の自分は泣いても笑ってもあと一時間。そしてまた、まるで新年を迎えるように、新しい十年が始まる。――スタートダッシュに不安を抱えた面持ちのままで。後ろ髪を引かれる思いで。
 再び十年を過ごし終えて、二十代が終わろうとするとき、私は、今みたいに後ろ髪を引かれるのだろうか。それとも、もう諦めているだろうか。それとも、希望に満ちているだろうか。
 わからない。ハイライトが消えそうになる。けど――さらに10年を超えた先に人生があったとして、今より絶望はしたくないから――だから、せめて、目をつぶって、この夜の闇の中にある日付変更線を、乗り越えなくちゃ。
 ああ、境目って、いつもどうして、夜の中にあるんだろう。

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