本性

 通学路に、とても目立つ小石が落ちていた。大層綺麗で、よく光を反射し、それはそれはよく目立つ石だった。初めて見つけてから何週間も経ってもそこから無くならないし、なんと言っても美しかったので、拾った。近くで見れば見るほど、やはりとても綺麗な石だった。
 家に持ち帰って、フィギュアやら参考書やらゲーム機やらで散らかっている机の上に、強引にスペースを作って飾った。机の蛍光灯をつけると、その光を強く反射し、綺麗に光った。その輝きに夢中になった。ゲームや勉強を疎かにしてまで、その石のために時間を費やした。専用のケースを買ってみたり、こまめに埃を取るために掃除をしたりした。なんて綺麗な石を拾ったことだろうと、その石に陶酔していた。
 ある日から、その石の反射する光が、曇り始めたように感じた。しかし、それでもやはりまだ美しく、そこまで気にならなかった。家族も、「その石はどうにも変だから、早く捨ててしまいなさい」などと言っていたが、聞く耳を持たなかった。
 ある日突然、その石がひび割れ、中か気持ちの悪いブヨブヨした皮膚のような物が見えた。悪臭を放ち、指で触れると、僕の指がアレルギー反応を起こしたように赤く腫れた。まだ外側の石の部分は美しかったので、どうしても捨てることはできず、割れた破片をできるだけ元に戻してみたり、可能な限りの修復を施した。甲斐あって、悪臭は抑えられたし、幸いひび割れは石の裏側には及んでいなかったので、ひっくり返して、また同じように飾った。
 1週間ほどして、石が、完全に割れた。中身は、血の気のない、青白いブヨブヨした皮に包まれた、得体の知れない物体だった。あんなに綺麗だった石が、実は見せかけだけで、中身は醜悪な物体であった。悲しいだけでなく、苛立ちもあった。あんなに時間を割いて、世話を続けた綺麗な石が、こんなにも醜くなってしまうとは。一人、その物体に向かって怒鳴った。しかし、そのブヨブヨとした物は、ぴくりとも動かない。あの石の姿に戻れば、僕はこの石がもっと好きになれるのに。そんな姿じゃ、誰からも愛されないのに。身勝手にも、そんなブヨブヨとした物体に対して、ある種の哀れみを感じた。この物体は、このままでは誰からも愛されない。必死に「それ」に訴えかけた。元にもどってくれ。しかし、当然のことながら何も起こらない。どうにか砕け散った外殻とも言うべき石の破片を元に戻そうとしても、無理なことであった。
 周囲の人は、家族も友人も、皆こんな僕に対して呆れた。「だから言ったでしょう?」「早く捨てろよ、そんなもん。」皆口を揃えて僕に言い続けた。しかし、あの美しかった石のことを思い出して、またそんな石の為に費やした時間のことを思い出して、全く捨てる気にはなれない。そんな簡単に捨てられない。
 今でも、あのブヨブヨした物体は保管してある。砕けた石の部分も残してある。石に声をかけて、訴え続けている。どうにか、あの美しかった頃に戻らないかと、ずっと願っている。
 
 

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